大きな大砲の音と銃声、人の咆哮や悲鳴がどこか遠くから聞こえる。
土方は味方の兵士に両脇を抱えられながら引きずられるようにして戦場から離れていた。


『早く、どこか遠くへ!』


引き攣ったような叫びは誰のものだったか、深手を負った土方に確認する術はなかった。
傷が焼けるように痛い。
あぁ、俺は逃がされてるのか、と朦朧とした頭で認識し奥歯を噛み締める。
咳き込み血を吐くと両側から心配する声が聞こえ、返答しようとした瞬間。
身体が前に突き出され、逆らうことなく身体は地面へ近づいていく。
途中、後ろ目で確認したのは鮮血を撒き散らす兵士と、銃を構えている敵兵だった。
ほぼ同時に倒れ込み、しばらくして人の気配が遠のいていく。
鉛のように重い身体を叱咤して起き上がり二人の兵士を省みるが既に息はなかった。
ぐるぐると渦巻く感情を抑え、刀を支えにして歩き出す。
目の前が霞がかりよく見えない状態の中でも土方はただ歩き続けた。
行く当てもない、ただ何かしていなければ気が治まらない。



───悔しい、何故自分は何も出来ない。
なんて、惨めなんだ。



ズキリ、と一層強くなった痛みに息を詰めるとふと、頬を撫でるものがあった。
惹かれるように顔を上げ、土方は大きく目を見開いた。
まるでここだけ世界が区切られたように、目の前には薄紅の花びらが美しく舞っている。
そして、その風景を織り成している大きな桜。
土方はただその美しさに圧倒され、胸に込み上げるものを感じた。
何故かは分からない、自然に口元が綻び、同時に感じる頬に伝う熱さ。
土方は桜の傍まで歩を進め、幹に寄りかかりずるずると座り込んだ。
仰ぐと降り注いでくる花びらに土方は静かに目を閉じる。
浮かんでくるのは優しく、夢のようだった日々。
それと愛しい、別れを告げた彼の人。
まさかこんなにも穏やかに死ねるとは思ってもいなかった。


「──────」


最後の言葉は風に舞い上がった桜の音に掻き消された。
その代わりに遠くから自分の名を呼ぶ愛しい声が聞こえた気がした。



















二万打企画「愛してる」の斎藤さんに助けられる前の土方さん独白です。
小話ですがよろしければこちらもひよこ様に捧げます。




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