「声が出ねぇって……大丈夫なのかよ土方さん」
近藤から経緯を聞いた永倉と原田は目を丸くさせた。
原田が問いかけると土方はこくこくと頷く。
「トシが言うにはただの風邪らしい。念のため医者の元へ行くんだが一人は危ないから誰か同伴させようと話してたところなんだが……」
言いかけたところで着物の袖を引っ張って咎めるような顔をする土方に近藤は淡く苦笑する。
「この通り一人で行くの一点張りでな、二人からも何とか言ってくれんか?」
「……あー、だったら俺がついていくか?どうせ非番だし」
手を挙げながら名乗りをあげる永倉に近藤は朗らかに笑ってみせる。
「おぉそうか、ならば永倉君にお願いしよう。いいだろうトシ?」
土方は軽く眉根を寄せた後、永倉の元へ歩いていき問うように見上げる。
事情は分かっているものの、心配そうに上目で見つめてくる土方は可愛らしく、永倉と原田は頬に熱が集まるのを感じた。
気持ちを切り替えるように咳払いをして永倉は土方の肩へ手を置く。
「別に仕事があるわけでもねぇからよ。気にすんなって」
にか、と笑えば土方は少し考えてからこくりと頷いた。
筆をとって『準備をしてくる』と、伝えると広間を出ていった。
近藤も用事があるからと広間を出ていき、二人だけが残された。
「……目の保養だなありゃ」
「……手ぇ出すなよ」
「分かってるっての。俺に言う前に総司とかに言った方がいいんじゃねぇか?絶対ちょっかいかけてくるぞ」
「あー……そうしとく」
苦笑する原田にこめかみを掻きながら永倉は答えた。
すっかり盲点だったから忠告をしてくれた事に心の底から感謝する。
先に行ってやれよ、と背中をぽんと叩かれ目を瞬かせてから永倉は適当に返事をして広間を去っていった。
─────
屯所を出て、医者の元で診てもらい今はその帰り道だ。
診断はやはり風邪。
しかし熱などはなく、喉が赤くなっているだけの軽いもので声は一週間もすれば出るようになるらしい。
「いやー良かったなぁ土方さん、流行り病とかじゃなくて」
からから笑う永倉に対し土方は苦笑しながら肩を竦めた。
まったくもってその通りだ。
「しばらく巡察は無理そうだな。ま、大人しく溜まってる仕事やってな」
頭をぽんぽんと軽く叩かれ、土方は止めろと言うようにその手を払い除ける仕草をする。
じと、と睨み付ければ悪い、と永倉が素直に謝ってきたので一つ息をついて道を歩き出す。
しかし、後ろから永倉がついてくる気配がなく、不思議に思って振り返ると何かの店の前に立ち止まっていた。
大きく溜め息をついて呆れながら傍まで歩いていくと買い終わったのか永倉が笑いながら向かってきた。
何を買ったのか目で問いかけると永倉は風呂敷に包まれていたものを取りだし軽く投げてきた。
慌てて受け取ったものは綺麗に色づいた蜜柑だった。
「これだったら喉も潤せるし風邪にも効くから一石二鳥だろ?」
自慢げに話す永倉に虚をつかれた土方は目を丸くさせた。
あぁ気遣ってくれたんだな、とその優しさが嬉しくて口元を綻ばせる。
『ありがとう』
そう口を動かすと永倉は目を瞬かせふ、と笑い頭に手を乗せた。
「どういたしまして」
土方はいつもと違う永倉の雰囲気に目を見張った。
そのまま進んでいく永倉の背をぼんやり眺めてからその隣に追い付くべく小走りに後を追った。
手を乗せた際に呟かれた言葉は慈しむような、穏やかな声音だった。
タイトルがシリアスっぽいですが基本はほのぼのがメインです^^
無計画シリーズなので突然書き出すと思います。
永土がもっと増えればいいのに(´・ω・`)