白黒シグナル | ナノ



勢いというのは大変恐ろしいもので、紅茶をぶっかけたはいいがこの後どうすればいいのか分からない。
会長が怒って手でもあげられれば私はそれに対してのなす術なんか持ち合わせていない。
つまりは、フルボッコしかないわけだ。
どうしようかと頭をフル回転させている途中に、突然会長が壊れたように笑い出した。
え、なんなの、紅茶ぶっかけてショートしたの?
人間じゃなかったとか怖すぎる。
冷静にそれを見ていたところ、会長は目をカッと開いてこう発した。

「副会長ごときが偉そうな口を叩くんじゃねえよ!」
「っ、」
「会長、仕事してないのに蒼に手出しするのはいただけませんよ」

叩かれると思った時横からにゅっと腕が伸びてきて、会長の手を止めた。
そちらを見てみると、書記である美琴が怒りを孕んだ表情で立っていた。
いつも笑っている美琴だから、その表情には驚いて瞬きを繰り返すしか出来ない。
そんな私に構わず美琴は口を開いた。

「今のは蒼が正しいです
会長、貴方はここにいていい人間じゃないですよ
貴方は、私達の数ヵ月を踏みにじったんですから
早く出ていってください」

会長に反論の暇さえ与えず美琴は彼を生徒会室から押し出した。
とたん静かになる生徒会室。
本来の静けさを取り戻した生徒会室で、美琴がドアをにらみつつポットを取りにいくときに立てる足音だけが小さく響く。

「美琴、もうテニス部はダメだね」
「うん、部長があんなんだからもうゴミみたいなレベルじゃないかな」
「最近、練習試合で負けたって聞くし」
「氷帝、過去の栄冠なし、か…」

美琴の一言が今の氷帝を表すのにぴったり過ぎて何も言えなくなる。
前のように、輝きなんてありやしないのだ、今の氷帝には。
一人の乱入者だけでここまで落ちぶれた氷帝に、私達はただ溜め息をつくしか出来なかった。