小説 | ナノ




買い物に出かけた三人は、スポーツ店の中にいた。
凛は真剣に買うもののリストとにらめっこしながら商品を見比べている。
商品を手にしたまま二人に問う。


「ねぇ、どっちがいいと思う?」


そう問われると源田と佐久間はその度に凛へ助言をする。
助言を聞いて彼女は商品を決め、かごへと入れていく。
すると、凛が思い出したように言う。


「あぁ、そうだ
ボトル、買った方がいいかもね」
「ボトル?まだ大丈夫なんじゃないか?」


凛の言葉に佐久間が返す。
彼の言っていることは正しい。
部室にあるボトルはまだ変え時ではない気がするのだ。
あまりいたんでもいないし、まだまだ使える。
しかし、凛は言った。


「近いうちに試合があるでしょう?
その前には練習量が増える、ボトルが何個あっても邪魔にはならないわ」
「あぁ、そう言うことか。さすがはキャプテン」


源田がほめたように言った。
それが気に入らなかったのか、凛は顔をゆがませる。
そして、一言。


「あんたに子ども扱いされる年じゃない」


クルリと身をひるがえして、レジへ向かう。
たくさんの品が入ったかごはとても重そうだ。
凛は頑張って引きずらないようにかごを持っているが、その姿はだれが見ても無理をしているように見えるだろう。
そのかごを、源田が横からひょいっと取り上げた。
いきなり取られたかごに凛が問う。


「何?」
「こういう重いもん持つ時のために俺らはいるんじゃないのか」
「…ありがとう」


凛の照れたような小さなお礼に彼はふっとほほ笑んだ。
その笑みに顔の緩む源田。
佐久間はそれが気に入らない様子で、しきりに源田を睨んでは舌打ちをくり返している。

しかし、この後予期せぬことが起こった。


「あれ?源田と佐久間?」
「ん?円堂…?」


レジのほうから聞こえた声に源田がその声の主の名前を口にする。
その言葉に凛がその方向を見た。
そこに立っていたのは雷門中サッカー部キャプテンである、円堂守だった。
彼を目にした途端、考えているのか黙りこむ凛。
そんな彼女に気付いたのか円堂が首をかしげながら問う。


「あれ?お前もサッカー部?」
「まぁ」
「へぇ〜、そっか!
いつか試合で会うかもな!」


凛の返答に円堂の顔が輝く。
期待したようなまなざしで見つめられ、凛は佐久間の後ろに隠れた。
こういった視線になれていないのだ。
期待や希望が感じられる視線を向けられることに、凛は戸惑いと恐怖を覚える。
それは、あの事故が起こってからかもしれない。
鬼道の代わりにスポットライトを浴びだした彼女にはこれからの期待などが向けられてきたからである。
困ったように眉を寄せた彼女を見て源田がフォローを入れる。


「あ―…。
円堂、こいつ極度の人見知りなんだ
だからちょとこれぐらいしておいてくれるか?」
「あ、ゴメン…
俺そう言うんじゃんくて…」


源田に言われて円堂があたふたと焦り始めた。
それを見た凛はチョコっと顔を出して、首を何度か横に振った。
気にしていない、という意思表現のつもりだったのだが、ちゃんと伝わったようだ。
それを見て、円堂はニカッと明るい笑みを浮かべる。
その、太陽のような明るい笑みをみて、凛はまた佐久間の背中に隠れることとなった。


「おい、円堂、どこまでいっている」


少し遠くからもうひとつ、声が聞こえた。
その声に、凛がびくりと反応する。
凛と同様、佐久間と源田も目を見開いたりと反応を示す。
聞き覚えのある声と、少しくせのあるしゃべり方。
彼女の記憶が間違っていなければ声の主は今凛が恨みを抱く相手のはず。
それを肯定するかのように円堂が振り返り、その相手にこう言った。


「ゴメン、ゴメン、鬼道」


その言葉に、凛の唇がかすかに動く。
この、裏切り者…。



運命の悪戯