小説 | ナノ



授業中に携帯が震えた。
それは、一人だけではなくサッカー部部員への一斉送信で、送信者はキャプテン。
そう、凛である。
授業中にメールが送られてくるなんて珍しい。
首をかしげながらもそのメールを開くと、本文の内容はというと

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DEAR キャプテン
SUB  休みなさい
本文
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きょうの部活はナシにするわ
ゆっくり休むといいわよ
でも危ないことしてけがなんかすんじゃないわよ
怪我したらレギュラーから外すからね



という命令口調のそっけない文面だった。
でも、それにもかかわらず彼らの顔には笑顔が浮かんでいる。
こんな文面でも、凛の優しさがわかるからだ。
優しさを、素直に表せない彼女なりの気遣いだから。
自分の過去にあったことを繰り返したくない、という気持ちが伝わってくる。
それが、うれしかったのだ。

しかし、そのあと源田と佐久間、そして辺見の携帯にさっきとは別のメールが入る。




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DEAR  キャプテン
SUB  特にお前
本文
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辺見、貴様は寮から一歩も出るな
一番トラブルに巻き込まれやすいのはお前だ
トラブルに巻き込まれたら私が釘バットで原形をとどめない肉片にしてやるからな



辺見の携帯に送られてきたメールは、ほぼ脅しだった。
そのメールを見た辺見は一瞬フリーズしてからつぶやく。


「こえぇ、キャプテン…
おとなしくしてよう…」



辺見は賢くもそう判断した。
その判断は間違っていないだろう。

一方で、源田佐久間携帯には

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DEAR  凛
SUB   付き合って
本文
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今日買い物に行くから付き合って
いろいろと買いたいものがあるの



という、明らか彼女らしくない口調のメールが届いた。
確か、今日は買い出しの日ではなかっただろうかと不思議に思いつつもメールを読み終わった二人はにやけた顔でこう送信したのだった。


『もちろん
いつものとこで待ってる』


打ち合わせをしたわけでもないのに、同時に同じ文を送っていた。
それは、二人の付き合いの長さを表しているようだった。



――*校門前


「遅くないか?凛の奴…」
「気にすんなよ
ちょっと遅れることぐらいあるさ」


携帯片手に校門前で会話するのはもちろん佐久間と源田。
制服のまま、カバンを置いて校舎の方を見ている。
二人とも買い物に行くのがうれしいのだ。
一応、好きになった少女との買い物だ、嬉しくない奴がどこにいるだろうか。
心を舞い踊らせる二人に背後から声がかかる。


「おまたせ」
「…!」
「何?服がおかしいとでも?」


そこには私服の城崎がいた。
反応のない二人に怪訝な顔を作る彼女。
決して服が似合っていなかったわけではない。
むしろその逆で、似合いすぎていたのだ。
オレンジの長い髪に映える、白いワンピース。
そしてその上には黒いカーディガン。
いつもの軍服のような制服とは大違いだ。
いたって普通の…いや、普通より美しくきれいな少女だ。
同じ学園の生徒でさえも誰だ、あいつ、と振り返る。
なぜ彼らが反応しないのか不審に思いながらも凛は

「おい、大丈夫か?いくぞ」


と二人に声をかけて歩き出していく。
その声に我に返った二人は先を歩く彼女の背中を追ったのだった。



三人の買い出し