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朝連を終え、教室で机に座ったままの凛。
瞳は窓の外に向いていた。
ぼんやりとした瞳はどこかを見ているわけでもなくただ空中の一点を見つめているだけ。
そのいつもと違う様子に佐久間と源田が声をかける。


「おい、大丈夫か?」
「保健室になら連れて行くぞ?」


背後からかかった声に凛が億劫そうに振り向く。
そこにいる二人を確認して小さく息をついた。
そしてまた窓の外へ視線を戻し、少ししてから彼らに返す。


「何が?
保健室なら間に合ってる」
「お前がそうやってぼんやりしているとき、その後でいつも体調崩したり倒れるだろ
それが心配なんだ、俺たちは」


そう言った源田に凛は視線を向けて杞憂だ、と短く言い放った。
杞憂、の一言に佐久間と源田が不安そうに表情をゆがめる。
彼女――城崎 #NAME2##は最高のプレーヤーだが、一つ問題を抱えていたのだ。
それは、彼女の体に宿る病魔だった。
生まれた時からすでにその体の中にいた病魔は時を重ねるごといに凛の体をむしばんでいる。
その病魔は今の医療では治すことができず、ただ進行を遅らせるだけ。
そしていずれは死に至る。
それに凛はとっくに気付いているし、もう残された時間がわずかだということも知っている。
だからなのだろうか。
彼に復讐をしたいという気持ちが表れるのは…。


「私は、そんなにヤワじゃない
そんなもの、気のせいだ」
「気のせいで済むもんか!
お前がもし死んだら悲しむやついるんだからな!?」
「…心配しておきながらしんだらとか不吉なことを言うなよ、佐久間」


源田に言われて気付いたのか、佐久間が慌てて弁解を始める。
そのあわてぶりがいつもの人を寄せ付けない帝国の参謀と違いすぎて凛は思わずくすくすと笑みが漏れた。
笑みを漏らした凛に佐久間と源田が安心したような笑みを浮かべた。


だが、今、この時、激しい頭痛と吐き気に凛が苦しんでいることを彼らは知らない。


笑みという仮面の背後には