小説 | ナノ



二年前の春。
ゆらゆらと空に昇る煙を眺めて涙を流したことがあったと鬼道は春が来るたびに思い出す。
その涙は一人の少女が天に昇って行くのを見ていたときにこぼれおちたものだ。

―――凛、元気にしているだろうか

あちらこちらで桜が舞い散る中、鬼道は空を見上げてそう思う。
高校一年生になった今もまだ彼女への思いは消えずにいた。
人は廻るんだよ、という彼女の言葉を信じて彼は待ち続けている。
いつの日か、また会えると信じて。
空から視線を戻すと桜の木の日陰でサッカーボールを蹴る一人の少女を見つけた。
それは初心者の動きではなく、熟年者の動き。
流れるような動きを見て鬼道ははっとする。
ボールの扱い方が凛にそっくりだったからだ。
木漏れ日と桜吹雪の中で鮮やかに光るオレンジ色の髪はポニーテールに結いあげられ、彼女の動きに合わせて踊る。
鬼道の目からポロリと涙がこぼれおちた。
風に揺れるマントに気付いたのか、少女が顔を上げた。
その瞬間、少女は一瞬なつかしそうな顔をしたがすぐにきょとんとした顔に戻って彼に問う。

「私、あなたに会ったことありました?」
「あぁ、少し前に、な」
「え…、覚えてないんですけど…
あの、すいません…!」

頭を下げて謝る彼女に鬼道はふっと笑って顔を上げるように言った。
不安そうな表情のまま顔を上げた少女に鬼道は口を開く。

「俺はな、廻り廻って会いに来たんだ」
「廻り廻って…、会いに来た…」
「そうだ、俺はお前に会いに来たんだ」

鬼道の言葉にはっとする少女。それから大きな瞳から涙をボロボロと流し始めた。
その涙は彼女自身が意図しているのではなく、勝手に流れているようで少女ですらなぜだか分かっていないようだ。

「ごめんなさい、なぜだか止まらないんです
なんだか、懐かしくて切なくて…」
「気にするな、お前に会えただけ十分だ」

その言葉に少女はありがとう、と微笑んだ。
そしてまたサッカーへ戻る。
鬼道はその様子を眺め、そして思ったのだ。

廻って会いに来てくれて、ありがとう、と。

第一部fine.