小説 | ナノ


今からちょうど一年前。
空には雲ひとつなく、絶好のサッカー日和だったあの日。
いつもと同じように練習をしていただけだったのに、私は大切なものを失ったのだ。


「あ…、あぶ…!!」


チームメイトの声が聞こえたとき、もう手遅れだった。
空を切る音、飛んでくるボール。
何もかもがいつもと同じはすだったのに。
いつもなら、いつもなら避けられたはずなのに。


その日に限って、私は動けなかった。


その後、何が起こったのか私は把握できなかった。
少し遅れての激痛に、私は無力にも叫ぶことしかできなかった。
痛みとともに流れ出る血が妙に生々しく、それでいてただ現実を私に伝えていた。
どうして、こうなった…?


「痛い…!うわあああああああああ!!」


今思えば、なぜあの時冷静になれなかったのだろう。
冷静になれていれば今こんな思いをすることもなかったのに。
まぁ、突然の痛みに対して冷静になれる人は少ないと思う。
私も一般の人間と同じだっただけの話だ。

でも、だ。
けがを負わせた人間の立場はいったいどうなんだろう。ます真っ先に謝って救急車を呼ぶのが人として当り前ではなかろうか。
それなのにあいつは…。
あいつは私に謝るどころか、救急車さえ呼ばなかった。
キャプテンなんだから、それに加害者なんだからそれぐらいして当り前でしょう?
それなのに、どうして…。

それから何カ月たっても彼は来なかった。
入院している病院も佐久間たちから聞いているはずだし、私が面会可能な状態であることも知っていたあろうに、彼は来なかったのだ。
その態度からわき上がってきたのは憎悪と怒りだけだった。
憧れていたのに、背中を追いかけていたのに。
いつか同じ世界を見たいと、そんな風に思っていたのに。

彼に抱いていた憧れが大きかったから私の憎悪は膨らんで、今ではもう、あの頃の無邪気な私の面影などない。
ただ、一言謝ってほしかっただけなのに。
謝ってくれれば許したのに彼はそれをしなかった。
さようなら、私の憧れの人。

私はあんたを絶対に許さない。