小説 | ナノ



晴れて想いが伝わった二人は凛の病室でつまらない話に花を咲かせたり、思い出を話し過去を懐かしんだりしていた。
凛は鬼道に対して敵意や殺意を向けなくなり、その代りに笑顔や微笑みなどの可愛らしい表情を浮かべるようになった。
その表情はまるで過去の凛に戻ったかのようだ。
鬼道や帝国メンバーは昔の凛に戻った、と笑顔を浮かべている。
狂った歯車は正常に戻り、また楽しい時を刻み始めた。
凛の事が好きな佐久間と源田は心に小さな痛みを感じていたが二人顔を見合わせると仕方ないか、というように笑う。

「少し下で何か飲まないか?
私がお金は出す」
「下のカフェでか?」
「あぁ、嫌か?」
「いや、構わないが…
お前は安静にしておくのが一番なんじゃないのか?」
「安静になら毎日してる
動けないのがこんなにつらいと思わなかった
少しぐらいならいいだろう、かまいやしないさ」

そう言ってベッドから床に足をつけ立ち上がろうとした凛だったが、その瞬間ふらりとふらついて鬼道の胸元に飛び込んでしまった。
ふざけているのかと思った鬼道だったが凛の浮かべる驚いたような顔を見ると彼女にも驚きなのだと悟る。
鬼道が凛を支えながら彼が問う。

「どうした?
つまずいたのか?」
「違う…、足に力が入らない…」
「なんだと…?」

鬼道は凛の言葉を聞き、彼女をベッドに座らせると凛の足をすっと上に押し上げてみた。
凛の言う通り、全く抵抗がない。
これはどうしたものか頭を悩ませる鬼道に凛は重々しく口を開く。

「これは多分、生まれつき持っている病気だと思う」
「治療法はないのか?」
「……ない」

凛の短い答えに鬼道の目が見開かれた。
治療法がないのは、困り者だ。
生活をするにも、サッカーをするにしても足は重要である。
その足が使えないのだ。
この先、凛と共に歩けない。
また一緒にサッカー出来ない。
そう考えただけで鬼道は絶望のどん底に突き落とされたような気分になった。

動きゆく彼女の時間