小説 | ナノ



唖然とする鬼道をよそに凛は身を翻してポディションに戻っていく。
それを黙って見つめるしかできない鬼道に豪炎寺が問うた。

「さっきのは、禁断の技なんじゃないのか…?」
「あぁ…、普通はな」
「普通は…?」
「あれは、もう禁断の技ではない
凛が改良したただの究極奥義でしかない」
「改良…?」
「あぁ…」

鬼道はそう言って視線を前へと向ける。
その先にはオレンジ色の髪の凛。
豪炎寺は何も言えなくなり、ポディションへと戻る。
そのすぐ後に雷門からのキックオフで試合は再開された。
鬼道からボールは豪炎寺へと回る。
ドリブルで上がる彼の前に立ちふさがったのは咲山だった。

「残念だが、ここを通すわけにはいかねぇんだよ」
「あいにくだが、こっちも阻まれるわけにはいかない」
「通れるもんなら通ってみろよ」
「やってやろうじゃないか」

そう豪炎寺が言った瞬間、咲山がスライディングの態勢に入る。
豪炎寺は見切った、とでも言うように咲山の上へボールとともに上がり、彼をかわそうとした時だった。
それを見越した咲山はぐっとっ下半身を上へと持ち上げ、豪炎寺のあげたボールをカットした。

「な…!?」
「こういう手もあるんだぜ?」

そう言って今度は咲山がドリブルで駆け上がる。
彼を止めるべく何人もの選手が咲山のマークに向かう。
それにニヤリと笑みを浮かべる咲山。
何をするでもなく彼はごく自然に横へとパスを出した。
その先には凛がノーマークで待機していた。
それに気づいた鬼道がしまった、という感じで顔をしかめたが、もう後の祭り。
ボールを持った凛はすいすいとフィールドを駆け抜けていく。
結構な人数が咲山にマークしていたせいもあり、瞬きをする間に城崎はゴール前にいた。
何度このパターンを味わったことだろう。
鬼道は悔しさに唇をかんだ。
凛はボールとともに飛び上がった。
そのフォームは亜風炉照美が使うゴッドノウズに似ている。
背中から純白の6枚の羽根が出てきてボールを固定し、そのボールを滑らかな動きで蹴る。
蹴られたボールは青白く神秘的な光を発しながらゴールへと一直線に飛んだ。

「アイアンフェザー!」
「マジン・ザ・ハンド!!」

円堂のマジン・ザ・ハンドを打ち破り、アイアンフェザーは帝国へと一点を加算する。
勝気な笑みを浮かべていた凛だったが、その体がゆらりと揺れたかと思うとそのままスローモーションでも見ているかのようにゆっくりと地面に倒れこんだ。

「凛!?」
「キャプテン!?」
「城崎…!?」

選手や鬼道の驚いた声は凛の耳には届かなかった。
荒く肩で息をする彼女を見て、木野が救急車を呼ぶ。
その間、凛は口から真紅の血を吐きだし、苦しそうに心臓を押さえていた。


“神に等しき魔術師”は決して神などではなく