小説 | ナノ



ボールをもらった凛はすごい速さで走りだした。
疾風ダッシュを使っているわけではない。
ただ単に走っているだけなのだが圧倒的な速さにFW、MFはおろか、DF陣まで動くことができなかった。
動こうとした瞬間、目の前はおろか背後にもいないのだ。
帝国にいたときと見違えた凛に鬼道が驚きの声を漏らす。

「な…!?」
「私が前のままだと思ったら大間違いだ!」

そう言って凛はボールを高く蹴り上げた。
左目を覆っていた前髪が風に靡いて生々しい傷が丸見えになる。
その傷を見て鬼道はぐっと奥歯をかみしめた。
今もなお残る傷痕に罪悪感しかわいてこない。
黙り込み俯いたそんな鬼道に気付かないのか城崎はボールを蹴る態勢に入る。
しかしそのままボールを蹴る訳ではなく、無理やり左目を開き、技名を叫んだ。

「黒き憎悪に飲み込まれてしまえ、漆黒の瞳!!」

凛によって蹴られたボールは必殺技を使っていないかのように見えた。
しかしそれは最初だけで、次の瞬間その軌道が大きくぶれた。
そうかと思えば、急に速度が増す。
その不規則な速度と方向の変化に円堂は対応できず、帝国に先制点が入ってしまった。

「今の技…、何なんだ…?」
「今のは究極の必殺技――
究極奥義・漆黒の瞳だ
…けほっけほ…」
「おい、凛、大丈夫か!?
さっきの技は…!」

佐久間が凛の背中をさする。
しかし彼女はその手をはらい、大丈夫だ、と言って自分のポディションに戻った。
その途中に動けないでいる鬼道を見つけ、彼に冷たく言い放った。

「ふっ…、お前のレベルも落ちたものだな」

まるで一陣の風のように