小説 | ナノ



「凛、鬼道驚いてるようだな」
「あぁ
まさか留衣が私だったとは思うまい」
「そうだな」

そう言って源田は雷門中の方に視線を向ける。
そこには凛を裏切った鬼道の姿。
今日、あの時の屈辱を味わわせられるんだと思うと彼女の胸が高鳴った。
でもそれと同時に息が苦しくなる。
胸を何かで縛られるような痛みまで出てきた。
それが何故なのか、凛には分かっている。
とうの昔に忘れた、淡い恋心。
それが復讐に水を指す。
今でも、昔みたいに好意は寄せている。
鬼道は凛の初恋の人、だったのだから。
傷を負ったとき直ぐに謝ってほしかった。
そうすれば、今こんなことにはなっていないだろう。
出来たなら、その時に告白できればいいとさえ思っていた。
だが、鬼道は凛の前に姿を現すことはなく、そのまま彼女の前から消えていった。
謝りさえしていれば今頃は仲良くサッカーをしていたかもしれない。
それを思うとまた胸が苦しくなる。
本当なら、こんなことなどしたくないのだ。
戦いたくなんてない。
だが、こうするしか凛に残された選択肢はなかった。
どんな屈辱を味わったのか、今からこの試合で思い知らせてやる。
覚悟していろ。

…きっと、この試合が凛の出られる最後の試合になるだろうから…。


王子と姫君は互いを思う



(この試合が終わったら)
(君に思いを届けよう)

(それで、私は君の前から消える)