小説 | ナノ




翌日の昼休み、人のあまりいない校舎裏に凛と源田、そして佐久間がいた。
佐久間と源田の顔は少し心配そうな顔で、凛はそれとは打って変わって普通の表情。
凛がきりだそうとしないため、源田が問う。


「それで、どうだったんだ?」
「それ、どっちのこと?実力?私の体?」
「実力の方」


源田が一言いい加えると凛はつまらなさそうに壁にもたれたまま口を開く。



「変わってない、一年前と
でも連携技持ってる可能性はあるな」
「そうか」
「で、体の方かどうなんだ」


次に佐久間が問う。
それに凛は真剣な表情をして答える。
もちろん、壁にもたれてはいない。


「もう、サッカーしない方がいいって言われた」
「な…!?」
「いつ体が壊れてもおかしくないらしい」
「お前…!もうやめろ!!」


佐久間が大声で言った。
凛は彼の行動に驚きつつも冷静な目でしっかりと佐久間を見据えた。


「今私が辞めれば帝国はおしまいだ
 せめて、次の試合が終わるままでは選手でいたいんだ」
「でもそんな事すれば…!」
「分かってる、でもどっちにしろ死ぬことはまれた時から決まっていた
 だから死ぬのが速くなってもそんなに悲しくなんてない」
「俺は…悲しいんだよ!」


佐久間がうつむきながら言った。
その肩はフルフルとふるえている。
こぶしをきつく握り、何かを我慢しているようだ。
絞り出すように佐久間が言葉を紡ぐ。


「俺は、お前がいなくなったら…悲しい…!
 だって俺、お前のこと…好きなんだ…!」


紡がれた言葉はそこにいるだれも予想できなかったもので、佐久間以外の二人はフリーズしている。
特に源田は眼を見開いていた。
無理もない、彼も凛が好きなのだから。
驚きながらも凛が口を開く。


「さ…、佐久間…、私は…」
「返事なんていい、どうで、お前が好きなの、鬼道さんなんだろうし…」
「なっ…!?
 そんな訳ないだろう!?決めつけるな!!」
「じゃぁ誰だって言うんだよ!!」


佐久間の出した大声に凛はびくりと肩をはねさせた。
そんな彼女を見て佐久間はいらっとした表情を見せて走り去っていった。
分かってもらえない、伝わらない…そんな怒りが溢れてどうしようもなかったのだ。


「凛、気にするな
 あいつ最近いらいらしててな…」
「最近って、いつごろから」
「雷門と練習試合申し込んできたあたりからだな」
「もしや鬼道か?」
「たぶんな
 お前の気があいつに向いてるのが気にくわないんだろう」
「幼稚園児か、アイツは…」


凛ははぁっとため息をついた。
どれほど自分を気にかけてほしいのだ。
前から少し子供っぽいとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
独占欲の塊、といっても過言ではないような気がしてくる。
少し萎えた彼女に源田が言う。


「今言うべきじゃないが、俺もお前のこと…好きなんだ」
「…な…」
「からかってなんかないからな!!」
「顔見りゃわかる
 それに、お前が冗談を言わないことぐらいわかってる」
「そ…、そうか…」
「源田は好きだ、でもそれはチームメイトと、友達として、だ
 恋愛対象には見れない、すまん
 佐久間も同じなんだ、嫌いなんかじゃない
 私を理解してくれるし、チームメイトだし…
 でも、それ以上にはどうしても見れないんだ」
「そうか
 お前がそういうのは何となくわかってたさ
 悪かったな、混乱させて」


源田は少しさみしそうにほほ笑んだ。
凛は申し訳なさそうに地面へ視線を落とした。
本当は、気付いていたのだ。
彼らの優しさに甘えて知らないふりをしていた。
それを考えると、胸に広がるのは罪悪感のみ。
ごめんなさい、そう口にしてもわびきれない。
それでも、友達以上には見れないのだ、そう凛はつぶやいて唇をかんだ。


揺れる心