小説 | ナノ




練習試合の約束をした後、彼らはそれぞれ各学校へ帰っていく。
最寄り駅に着いたところで源田が凛に問うた。


「知らせなくて、いいのか?」
「いい
知られたところで、試合を嫌がるだけ」
「でも、驚くんじゃないのか?
 お前が綾瀬 留衣だって知ったら…」
「だから言ってない
 言っておくが、さっきボールをけって顔面に当てることも可能だった」
「ちょ…!
 いくら凛でも、鬼道さんの顔面にボールぶつけるのは許さないからな!」
「誰も本当にぶつけるなんて言ってない 
 ただ、それも可能だったって言っただけだ」
「そうか…」
「そうよ
さぁ、みんなに明日知らせるわよ」


凛がにやりと笑う。
源田と佐久間はこくりとうなずいた。
凛は小さな声で、つぶやく。


「さぁ、地獄と私の屈辱、悲しみを味あわせてやるわ、鬼道」


それは憎しみと恨み…そして悲しみの入り混じったような声だった。
しかし、その言葉は風邪にかき消され、誰の耳にも入ることはなかった。



―――雷門二人組

「なぁ、帝国との試合なんて久しぶりだよな!!」
「そう、だな…」
「どうしたんだ、鬼道?
顔色悪いぞ?」
「気にするな、気のせいだ」
「そうか?無理はすんなよ
 で、聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」


円堂の問いに鬼道が顔を向ける。
それを確認してから円堂が言葉を発する。


「さっき、綾瀬 留衣はまだいるか?って聞いてたよな?
 そいつ、どんな奴なんだ?もしかして、サッカー強いのか!?」
「…その話、しなくてはいけないか?」
「聞きたいとは思う
 だってそいつサッカー強いならあってみたいな、って思っただけだからさ」
「綾瀬は今もサッカーをしているのか分からない…
 俺があいつに傷を負わせてしまったからな…」
「え…?」


鬼道の口から発しられた言葉に円堂はちょっと顔を曇らせた。
ただ単に興味で聞いただけなのに、鬼道の様子が一変してしまったからだ。
何か、過去にあったのかもしれない。
円堂はそれを無意識のうちに問うていた。


「何か…、あったのか…?」
「綾瀬は、帝国サッカー部唯一の女子サッカー選手だった」
「女子…?」
「あぁ
 だが、基本的に帝国サッカー部は男子のみの入部が認められる
 だから彼女は男装をして帝国に入学していた」
「…」
「そこで、事故が起こった」


そう語る鬼道の顔はしかめられ、辛そうなだった。
その痛々しい顔に円堂がもういい、と制止の声をかける。
そんなにつらい過去なら、無理に話さなくてもいい。
その意思を察したのか鬼道が小声ですまないな、とわびた。
そして、誰に言うでもなくそっとつぶやく。


「あの日のお前を、救ってやれなくて悪かった…
 今あえるのなら、謝って、言いたいことがあるんだ…」



お互いの気持ち




(この時)
(彼らは気付かなかったのだ)

(この後に起こる悲劇を――…)