未来日記 | ナノ


*みねね視点

私は、何をやってるんだ。
1stを殺すつもりでこの桜見中に潜り込んで爆弾を仕掛けているのに、生徒に見つかった上に声をかけるだなんて。
窓へ向かおうとしていた少女――いや、少女じゃおかしいか。
明らかに十五歳以上だろうそいつは、私に向き直った。
体操服の胸の辺りにつけられたゼッケンから、平坂という名前なのだと分かった。
その平坂は私を正面から見据え、ただ何を言うでもなくそこに突っ立っているだけ。
恐ろしいほどに無機物を思わせる瞳に、私の胸がチリリ、と傷んだ。
この瞳には、覚えがある。
何もかもを拒絶し、信頼しなかった、昔の私のような瞳。
自分以外を敵と見なし、必死に自身を守っていた昔の私にそっくりだ。
だから、声をかけたのかもしれない。

「お前、そっからどうするつもりだ」
「飛び降りる。そうすれば、フラグ、回避」
「まさかお前13thか…!?」
「まさしく。9th、私、殺しに来た?」

あっさりと自分が13thだと認めた平坂。
そしてその上動じずに、自分を殺しに来たのかと問いかけてきやがった。
恐怖のきょの字もありやしないその態度に、また胸が痛む。
平坂の抱えている問題を、私が軽くしてやりたい。
私が昔、してもらったように。
いつの間にか私は彼女に歩み寄って言っていた。

「私は雨流みねね。アンタを殺しに来たんじゃない」
「平坂、瑠斗。1st?」
「よくわかってんじゃねえか、物分かりのいいやつは嫌いじゃない」
「…そう」

平坂は単語でしか喋れないのか、はたまた話す長さを短くしたいのか――恐らく後者だろう――ポツリポツリと単語で意志疎通をはかってくる。
分からないわけじゃないからいいが、本当に無機物のような雰囲気を醸し出している。
まるで、最初から人形として生を受けたように。
私はやっぱり、平坂瑠斗を救いたいと思った。
私と似た平坂瑠斗を助ければ、自分自身も救われるような気がして。
だからなのかは知らないが、私は平坂瑠斗の手を引いて走り出していた。
久しぶりに後ろ手響く足音と小さな息遣い。
二人以上で何かをやるのは久しぶりだな、と走りながらぼんやり思った。


投影ホログラフィー