未来日記 | ナノ


*黄泉視線

私の隣を歩く、年下の少女。
夏だというのに長袖にベストを着こんだ瑠斗は、楽しげに話しかけてくる。
残念なことに私は目が見えないため、瑠斗がどのような顔をしているのか分かりませんが、とても可愛らしい顔をしているのでしょう。
私に対しての態度からしても、それは確実だと思います。
私の無骨な手をぎゅっと握り、腕に体を寄せる彼女は、家族と言うよりは半身と言った方が正しいのかもしれません。

「兄さん、私今日の体育でクラス一位とってくるね。そしたら兄さん誉めてくれる?」
「ええ、当たり前じゃないですか。新記録を出したら、さらに誉めますよ」
「ホント!?頑張ってくる!」

大人びたようで、やはりまだ年相応な反応をする瑠斗。
過去に親とのいざこざがあって私の家にきた瑠斗でしたが、もうあの頃の面影など全く見受けられなくなりました。
私の光で、宝物である瑠斗を守るために、私はサバイバルゲームを勝ち抜かなくてはなりません。
正義のヒーローだからではなく、平坂黄泉として。
どうやら学校に着いたらしく、瑠斗が振り替えって言いました。

「兄さん、行ってくるね。終わったらメールするから、私の事は大丈夫だよ」
「分かりました、いってらっしゃい瑠斗」

私がそう返すと、小さく笑って昇降口へ走り去っていく瑠斗。
瑠斗は今年で十八歳ですが桜見中学校に通っています。
入院や諸事情で中学校にいけなかったため、学校長が気を使ってくれたようです。
しかし瑠斗は賢い子なので、図書室で大学入試の過去問題を解いていると言っていましたが。
形式上中学校の生徒、ということらしいので教師も何も言わないのだと瑠斗から聞いています。
あまりとやかく言われるのが嫌いな瑠斗には、ちょうどいいかもしれません。

「さあ、私は善行に励むとしましょう」

私は家へ至る道を歩きながら、隣に瑠斗がいない虚無感に気づかないふりをしました。
瑠斗がいないと、やはりなんだか落ち着きません。
瑠斗を迎えに行くのが楽しみです。
なんて思った早朝の私を、後で大きな心配が襲うなんて、その時は全く知りませんでした。


無意識依存性