未来日記 | ナノ



雨流みねねが止まったのは、グランドの中心だった。
息ひとつ乱していない私に彼女は意外そうな顔を向けている。

「お前、見かけによらず体力あるんだな」
「……まあ」
「それと……、その腕や足の傷痕どうした?深いのが無数にあるみたいだけど…」
「っ……!」

掴んでいたジャージを素早く身にまとい、私は必死に傷痕を隠す。
こんなもの、見られたくない。
私が人形のようになった原因を。
傷ができた原因を知られて、またおぞましいものを見るような、それから悪意と興味で満ちた視線で見られたくない。
これはトラウマと呼んでも、おかしくない。
雨流みねねは知らない人に分類される人だが、それでも怖いものは怖いのだ。
明らかに様子がおかしい私を気遣ってなのか、雨流みねねが私の頭に軽く手を置いた。

「話したくないなら無理には聞かないさ。何かあったんだろ?大方予想はつくけど、アンタが話したくないなら今いう必要はない。出会ったばっかの私だけど、アンタの力になりたいんだ」
「雨流、みねね…」
「フルネームじゃなくていいって。雨流でもみねねでも好きに呼びな」
「じゃあ、みねね…」
「ん、なんだ?」
「………ありが、とう」

兄さん以外にお礼を言うのは、いつぶりだろうか。
照れ臭くなって下を向いた後に視線をそらせば、みねねが私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
それから聞こえた気にすんなよ、と少し笑ったような、嬉しそうな声。
なぜだかそれが安心できて、みねねに抱きついていた。
お母さんって、多分こんな感じなんだろうな、なんて考えてたらみねねがまた私の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

「いきなりなんだ?私は構わないけどな」
「…みねね、好き」
「さっきとはずいぶん変わった態度だな。今の方が可愛いし、お前っぽい」
「瑠斗」
「は?」
「瑠斗!」

私が何度も自分の名前を連呼するものだから、みねねはようやく名前で呼べと言っていることに気づいたらしく、苦笑しながら瑠斗と、私の名前を呼んでくれた。
それだけでなんだか暖かい気持ちになって、もっとみねねに引っ付いた。
そんな私にみねねはやっぱり苦笑しつつも私の頭を撫でる。

「瑠斗、1stを殺るのに協力してくれるか」
「うん」
「じゃあ行くぞ!」

校舎へ走り出したみねねの後に続きながら、なんでわざわざグランドまで降りてきたのだろう、と疑問を抱きながらも私は彼女に置いていかれまいと走るのだった。


好きと嫌いは紙一重