剣城連載 | ナノ



あの光は私には眩しすぎる。
だから私は一人を選んだ。
私は、罪を犯したから。


白銀に紛れる




教室を出て、あてもなくふらふらと校舎内を歩く。
休み時間はまだたっぷりあるため、どこかで一人になろう。
そう思って階段に差し掛かったとき、上から声が降ってきた。
私の嫌う、忌々しい声が。

「どこへ行く、秋原イヴ」
「剣城京介…」
「お前には聞きたいことがある」

その言葉の後に、一段一段ゆっくりと階段を降りる音が響く。
まどろっこしい、私は気が長くない。
くるりと彼に向き直り、いつもの抑揚のない話し方で言う。

「迷惑。私は話すことはない」
「そう言うな、聖書沿いのイヴ」
「………」

私の異名を口にした彼を、真っ正面から睨み付ける。
目付きの悪い私ににらまれてもなお、彼はおかしそうに笑みを浮かべている。
正直、腹がたった。
なにがそんなに面白いのか、私には全くわからない。
いや、分かりたくもない。
私の意志が通じたのか、剣城はふと真顔に戻った。
そして私に距離を詰め問いただしてきた。

「なぜお前はフィフスを抜けた?
お前ほどの才能があれば、聖帝はお前を手放すとは思えない」
「フィフスはやめたいからやめた
聖帝に気に入られようが、私には関係ない」
「お前……っ!」

胸ぐらを掴まれ、殴られそうな体勢で私は彼を睨んだ。
剣城より身長が低いため、必然的に足が床から離れる。
宙ぶらりんの状態で、私は話し出す。

「フィフスのサッカーは、間違っている
あんなサッカーやるくらいなら、サッカーをやめたかった
だから私はフィフスを抜けた、無許可で」
「何だと…!?ふざけるな!」
「ふざけているのは、君の方
弱者をいたぶるサッカーなんか、サッカーじゃない
腐敗しきった、サッカー擬きの競技だ」

宙ぶらりんになった足で彼の腕を蹴りあげ、床に着地する。
それから階段を降りて、剣城から距離をとった。
彼の視界に私が入っていないであろう位置で、私はふと立ち止まり上を見上げた。
あれは、昔の私。
哀れで、正義擬きを振りかざしていた愚かな自分。
自分の力を過信しすぎていた昔の自分と剣城が重なって、私は思わず逃げた。
私は弱虫だ、何もできずにただ保守的な態度しかとれやしない、ただの弱虫だ。
そう、改めて思った。