剣城連載 | ナノ



始業式で、あの女の子が新入生代表挨拶をしていた。
聖書のような言い回しに、皆笑ってたけど、俺は素敵だと思った。

白銀は謳う



「あのさっ、君今日の朝の子だよね!」
「…」
「かっこよかったなあ、化身ってどうやったらだせるの!?」
「天馬、静かにしなよ」

分厚い本から顔をあげた秋原さんの表情を見て、葵が焦ったように俺の腕を引っ張る。
葵が焦ってるのは、多分秋原さんが無表情だからだと思う。
秋原さんは一向に口を開かないし、葵は俺を睨むし、どうすればいいのか分からない。
ちょっとの間、誰も何も言わずに時間が過ぎる。
気まずい雰囲気を破ったのは、秋原さんだった。

「サッカー、好き?」
「え?サッカー?
好きだよ、もちろん!」
「…そう」

申し訳なさそうに答えた彼女に、俺達は首を傾げるだけだった。
秋原さんは何も悪いことしてないのに、なんで謝るんだろう。
俺達の疑問が通じたのか、秋原さんが立ち上がり、口を開く。

「フィフスでサッカーを管理していたことがある
私は貴方の好きなサッカーを、壊した」
「フィフス…?それって…」
「知らないのも、当たり前
サッカー部でない限り、存在を知ることはない」

聖書を閉じて、秋原さんははっきりといい放った。
サッカーを管理していたなんて、そんな馬鹿げた話、信じられない。
そんなところ見たこともなかったし、そんなことがあるのも見たことがなかったから。
俺達が唖然としている間に、秋原さんは教室から姿を消していた。

「秋原さん、冗談言うようには見えないんだけどな…」
「案外、本当なのかもね」
「そんなこと、しないよ」
「天馬?」
「秋原さんは、俺達を助けてくれた
それに、サッカー大好きなはずだから」

俺の言葉に、葵は呆れたような顔をする。
葵には分からないみたいだ。
さっきの試合で、化身を出したときの声を。

『サッカー、好きだから
       絶対に、守る』