剣城連載 | ナノ



きっとこんなのは間違いだ。
そう、俺の頭が何度も何度も繰り返し発した。

自惚れが堕ちる



少女は制服にローファーというサッカーをするとは思えない格好で俺を見据えている。
かくいう俺もサッカーをするには向かない格好ではあるが、足元はスニーカーだ。
ローファーよりは格段に運動向きと言える。
こんな格好の奴に負けるもんか。
そんな自惚れが、俺の中にあったのかもしれない。
油断しきっている俺達、黒の騎士団に、少女は言い切った。

「ただの女だと思わないで下さい
今に後悔しますから」

凛とした声のあとに、少女は全身に気をためて化身を出した。
たなびく薄水色がかった銀髪に、両手には裁判官が持っていそうな槌と天秤。
そして左だけに生えた純白の羽。
少女とマッチした化身に俺は息を飲んだ。

「片羽の天使、アンジュ!
さあ、法廷の時は満ちましたよ

諸天使のジャッジメント!」

罪の重さをはかるようにボールを化身――アンジュの天秤にかけてから、彼女はボールを蹴った。
唸りをあげて空を切り裂きながら飛ぶボールに、アンジュが槌をふるい勢いをつける。
光の矢のように真っ直ぐゴールへ進むボールに、身構えたキーパーだったがその甲斐虚しくボールはゴールへ突き刺さった。

「私の勝ちです
約束通り、出ていってください」

冷たい言葉を吐いた後、少女は俺達に背を向け、校舎へと進んでいく。
その背中がなぜか少し寂しそうで、俺は知らない間に呼び止めていた。

「オイ!」
「…なんですか」
「な、名前を教えろ」

俺の言葉に、少し不審そうに眉をよせてから少女は一言こう言った。

「秋原イヴ」

それだけ言い終わるとさっさと去っていった少女、否秋原イヴ。
ぼんやりと彼女のいた場所を眺める俺とは対照的に、秋原イヴ…か、と小さく黒木さんは呟いている。
なぜか、引っ掛かりが抜けず、俺はただ立ち尽くすだけだった。