剣城連載 | ナノ


多分許せなかったからだと思う。
あのとき咄嗟に体が動いたのは。

無意識の防衛



入学式の直前、私はふらふらと学校の敷地内を歩いていた。
流石はサッカーの名門校。
いくら歩いても敷地の終わりに出ない。
サッカーの栄光とは恐ろしいもので、あの奇跡のFFIから十年という年月がたっても栄光は消えていない。
ここでサッカーが出来たらどれほど楽しいだろう。
一人で想像して笑みが零れた。
入部が楽しみでしかたがない。
学校の顔と言われるサッカー部は今の時間なら練習をしているはずだ。
そう判断してサッカー部の部室の方へ足を向けた。
その判断が今となっては間違いだったのかもしれない。
そう後悔するのはこのすぐ後だった。

「何これ…、フィフスセクター…」

サッカー部専用のグランドに来てから私は自分の目を疑った。
なぜこんな風にサッカー部の部員が地に伏せているんだろう。
ユニフォームを見る限り、いつも試合に出ているメンバーではなさそうだ。
セカンドチーム、といったところだろうが、雷門ほどの強豪校のセカンドチームがこんなに容易く負けるはずがない。
ボールをキープしている選手を見れば、それは最近聖帝のお気に入りらしい剣城京介。
大方、雷門を潰せとの事なんだろう。
元シードだった私には聖帝がどんな指示をするのかなんて彼が口を開く前に分かった。
私がフィフスセクターを追放されたのは結構な昔になるが、聖帝の言葉の予想は昔通り出来る。
やり方を、間違ってる。
サッカーは勝敗を管理されて、自分を殺すスポーツじゃない。
セカンドチームを休ませ、変わりにグランドへ足を踏み入れたファーストチームだったけどすぐに剣城の化身で地に膝をつく。
立っているのは同い年らしい少年だけ。
その少年もふらふらしていて、明らかに歩が悪そうだ。
ぼろぼろになってまでサッカーを守ろうとする彼にいつの間にか私は好感を抱いており、思わず坂をかけ降り彼の前に立ちはだかった。
きょとんとする剣城と少年だったが、剣城は化身を出してシュート技を打ってきた。
そんなことされたって無駄なのに。
そう思いながら気をためて腕を降り下ろした。

「片羽の天使、アンジュ!」

私の化身アンジュでランスロットのシュートを止めた。
もうサッカーを汚して欲しくない。
二回目のフィフスセクターへの反抗だった。