花言葉 | ナノ



唐突だが、跡部にはバラのよりも似合う花があると思う。
彼がよく手にしている赤いバラの花言葉は情熱や内気で、全くもって彼には似合わない。
バラ全体では美や愛情で、かろうじて美は当てはまるように思うがやはり全面的に似合っているわけではない。
花言葉を理解せずバラを愛でるというのは馬鹿げた話だ。
オールマイティーだからかっこいい、と騒ぐ女子の気が知れない。
小さくため息をついてテニスコートを見下ろせば運がいいのか悪いのか跡部と目があった。
何が嬉しいのか知らないが得意気な笑みが浮かんでいる。
正直に言おう、ウザい。
誰がお前なんかを好き好んで見るか、このアホ部が。
イライラしながら内心毒づいていたが、ふと致命的な事に気付く。
あいつはきっと私に話しかけに来るはずだ。
今までテニス部に興味を示さずテニスコートを素通りしていた私と目があったのだから。
面倒だな、と思ったが教室の花瓶に生けてあるスイセンが目に止まり、私の顔には笑みが浮かんだ。
スイセン、ね、いいチョイスだ。
花を生けた委員長のセンスを誉めつつその中の一本を手に取り私は跡部を待った。

「オイ、漣はいるか」
「来たね、跡部」

私の読み通り教室に姿を表した跡部に私は笑いそうになるのをこらえながら答えた。
ここで笑っちゃ意味がない。

「お前、俺を見ていただろう
俺様の美技に酔ったか、アーン?」
「まさか、滅相もない
私はただ跡部にバラより似合う花があるのに勿体ないな、と憐れんでいただけだけど」
「何?
俺様にバラより似合う花だと?」
「うん、これだよスイセンの花」

私がスイセンを差し出すと跡部は顔をしかめたが、なるほど白はいいじゃねーか、と納得し胸ポケットにスイセンの花をさした。
ダメだ、笑える。
顔をしかめたのは花言葉を知ってるからだと思ったのに違ったみたいだ。
明日からスイセンが俺様の花だ、と高らかに宣言した彼に私は腹筋が筋肉痛になるのではないかと思うくらい笑いに笑った。

学園のナルキッソス


−−−
スイセン/ナルシスト