花言葉 | ナノ



彼は私の言葉を理解してくれているのだろうか。
自席について音楽を聴いている財前に私は疑問しか浮かばない。
私の記憶が間違っていなければ、私は彼に数日前告白したはずだ。
率直に好き、と伝えたのに答えは返ってきていない。
どうして気持ちに答えをくれないの。
告白すれば以前と同じ関係には戻れないと理解しての告白だったのに、財前はそれをわかってはいないんだろう。
不安だよ…、財前…。
答えが、欲しい…。
思わせ振りな態度が逆に私を苦しめる。
ねえ、財前は誰が好きなの?
私じゃないの?
それならそうとはっきり言ってよ…。
ハンカチにつけたラベンダーの香りが私の鼻腔を掠めた。
その安らぐような独特の香りが私の涙を誘う。
辛い、財前、無関心な態度をとらないで…。
心の中で言葉にしたって意味がない。
心臓の辺りをギュッと締め付けられているような痛みにはいつまで耐えればいいのだろう。
今にも泣き出しそうになって目元を押さえると、驚いたように財前が席を立って私に近付いてきていた。
私の前で足を止めて彼は焦ったような声で言う。

「漣、泣いてるんか?」
「ざい、ぜ、ん…」
「どないしたんや、いきなり…
ハンカチあるんやろ?
それではよ涙拭けや、顔パリパリになんで」

財前にそう言われて私は慌ててハンカチを出して涙を拭き始めた。
その時に香ったラベンダーに財前の目がカッと見開かれて、またすぐいつもの気だるさを含んだ鋭い目に戻る。
部長、余計なこと吹き込んだんか…、と呟いてから私に言った。

「告白の答えやけどな」
「う、ん…」
「いわな分からんか?
俺、音楽一緒に聴いたんお前だけやねんけど」
「え…?」
「好きでもないやつと音楽一緒に聴かんし」

そう言って背けられた顔は赤みがさしていて、嘘じゃないって事を密やかに証明していた。
今度は嬉し涙が目から零れてまた財前がオロオロと目を泳がせる。
きっとこれはラベンダーの香りが運んだ幸せ。

先延ばしの答え



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ラベンダー/答えを下さい