花言葉 | ナノ



漣さんは、見返りを求めない方でした。
仁王くんがノートを借りに来ても、宿題を写しに来ても、いつも見返りを求めず笑顔でノートを差し出していました。
優しい方。
それ以外に言い様がありません。
昼休みの図書室で声を殺して泣いているのを見つけるまではそう思っていました。

「どうされたのですか、漣さん」
「仁王くんに、彼女がっ、出来た、って…」
「そう言えばそのような噂を私も聞きました」
「今までの、努力、無駄だった…っ」

そう言ってしゃくりあげる漣さんを宥めながら気付く。
あの優しさは仁王くんに好かれたいがための優しさだったのだと。
偽りの優しさかと一瞬思いましたが、図書室という事もあり声を殺し、周りの迷惑にならないようにしている漣さんは十分に優しい方です。
普通なら略奪を企てたりするものですが、漣さんは涙を拭い、まだその辛さで濡れている瞳で微笑みながら言いました。

「仁王くんに花束渡しておめでとうって言わないとね」

仁王くんの幸せを祝う漣さんはやはり優しい。
次の日、クチナシの花束を仁王くんに渡した漣さんは私を見つけて微笑んで言いました。

「柳生くん、渡せたよ
私、上手に笑えてたかな…?」
「ええ、笑えていましたとも
ところで、なぜクチナシの花束を?」
「クチナシの花言葉はね、私は幸福です、っていうの
仁王くんが幸せなら私も幸せだから」
「漣さん…」

私は彼女の名を呟くので精一杯でした。
クチナシには沈黙という花言葉もあるのです。
それは仁王くんに自分の気持ちを言わず、友達でいる漣さんそのもので、私の胸がズキリと傷みました。
そして、あのクチナシは私をも表しているのではないかと思います。
漣さんが仁王くんへの想いを忘れられない間は私も貴女への好意を言わずにいるつもりですから。
漣さん、次にクチナシの花束を渡すときは私に渡していただけませんか?
心の底からの笑顔で、私は幸福です、という花言葉で。

沈黙を守る



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クチナシ/沈黙・私は幸福です