花言葉 | ナノ



私は目の前で歴史と格闘している彼が嫌いだった。
女癖の悪い、へらへらしている千石清純という男が今まで出会った男の中で一番嫌いだった。
ふらりと美少女の元へ向かい、惚れさせるだけ惚れさせておいてあとは知らん顔。
興ざめた、とへらっと笑う姿なんか最低だ。
花のある場所へ気紛れに飛んでいく蝶。
それが彼に相応しい形容詞だと、思った。
嫌いだと言いながらも彼が苦手だという歴史を見ている私はつくづくお人好しだと思う。

「ねえ美里ちゃん、これって本能寺の変であってる?」
「あってる」

無愛想に答えればありがとう、と綺麗な笑みが返ってきた。
その笑顔で何人の女の子を落としたの?
私以外の女の子に向けた笑顔なんて欲しくない。
私をあんな子達と一緒だと思わないで。
余裕が浮かぶその態度が嫌い。
お願いだから、これ以上私の心を乱さないで。

「美里ちゃん、眉間にしわが寄ってるよ?」
「誰のせいだと思ってるの」
「あはは、俺のせいだよね?
でも美里ちゃんは笑ってる方が可愛いよ」

そう言って私の頬に手を伸ばす千石。
私は思わずその手を払いのけてしまった。
丁度、ホウセンカの花が種を飛ばすように勢いよく。
千石は驚いて目が点になっている。
私はそれに構わず叫んだ。

「私に触れないでよ!
そこから千石を好きになるでしょ!?
女の子を誰彼構わずナンパする千石なんて大嫌いなんだから!」

私が言い終わると共にニコッという効果音がつきそうなほど嬉しそうな笑顔を浮かべて千石は言う。

「両想いで嬉しいよ、美里ちゃん」

その言葉に私は諦める。
私は認めたくなかったのだ。
千石が好きだと言う事実に。
触れられれば、そこから好きになってしまう。
その指先が私を麻痺させる。
それが分かっていたから嫌いだと嘘をついて気付かないようにしていたのだ。
だけど、もう無駄なようだ。
心底嬉しそうな笑顔の千石を見れば、嫌いにならなきゃ、等とは思わなくなっていた。


貴方の指先が怖い




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鳳仙花/私に触れないで