高校生鬼道 | ナノ



記憶は、流れた時を刻むもので、それゆえ重く、脆い。
新たな記憶を書き重ねれば、昔の楽しかった記憶に上書きされ、それを思い出せなくなる。
記憶とは、実に曖昧で、不安定なものだ。
記憶に残るのは、悲しみだけだと、私は思う。
例えば、小さな頃、飼っていた小鳥が逃げてしまったこと。
大好きな友達が引っ越してしまったこと。
大切な宝物をなくしてしまったこと。
数年前までは、細部まで思い出せたであろうことが、今ではすっかり思い出せない。
時は、残酷だ。
大切なものを、掠め取っていくから。
だから大人になんか、なりたくなかった。
大人になってしまったら、この胸から消えない、温かくてちょっぴり悲しい思いを、忘れてしまいそうだったから。