この夜が終わろうとも | ナノ



あの日以来、俺と帝野さんは一緒にいることが多くなった。
一人で病室に籠もるよりは二人でいた方が遥かに有意義だ。
入院中なんて特にやることもないのだから一人でいたら無限に時間を食い潰してしまうのは目に見えている。
それなら世間話や下らない談笑をしていた方が気も紛れるし断然有意義だろう。
それに帝野さんと話すのは個人的に嬉しいし。
実の話、俺は二年の時から帝野さんが好きなのだ。
多分片想いだろうが、俺はそれでもいい。
今この瞬間、帝野さんと話せているのだから。
それだけで十分である。

「幸村くん、そろそろ本格的に暑くなりそうだね」
「そうだね
今以上に暑くなったら外に出るのが億劫になりそうだよ」
「うん、私も
日焼けしたくないし暑いのは嫌だし」
「誰しも暑いのは嫌だよ」

緩く冷房のかかった病室での談笑。
今頃テニス部の部員はこの日差しの中、辛い練習に励んでいることだろう。
彼らには悪いけれど、俺はこのままでいたいと思っている。
入院した当初は早く病気を治してまたテニスをしたいと思っていたけれど最近はそれほどではない。
テニスが嫌いになった訳ではなく、帝野さんと談笑する時間が心地よすぎるだけなのだ。
そんな事を考えていた時、帝野さんが急にそう言えば、と何かを思い出したかのように口を開いた。

「幸村くんは向日葵の花言葉知ってる?」
「唐突だな、どうしたの?」
「夏が来るなあ、と思ったら急に思い浮かんだだけ」
「そっか
えっと、確か憧れじゃなかったっけ?」
「うん、そうだよ
幸村くん博識だね」
「これでも趣味はガーデニングだからね」

そう言うと帝野さんは意外だな、と呟いて驚いていた。
でもそれから綺麗にニッコリ笑ってガーデニングが趣味って素敵だね、と続けた。
帝野さんの明るい屈託のない笑顔は夏の日差しのように眩しくて、俺達のいるこの病室だけ一足早く夏本番が訪れたような気がした。

それは向日葵のような


(晴れ晴れとした綺麗な笑顔)