君ともう一度夏休み | ナノ



アイスをかじる君はあの日の笑顔のまま。
十三才の君と十四才の俺達に薄くて高い壁があるように感じた。


これでよかったんだよね?




「やっぱりテニス部の練習大変?」
「うん、大変だよ
レギュラーだから尚更ね
朝練もあるし放課後も一番練習長いし」
「鳳くんレギュラーなの!?
わぁ、すごいすごい!」
「日吉もレギュラーなんだよ、木下さん」

俺がそう言うと日吉くんもすごい、と跳び跳ねる木下さん。
少し低めの身長も、明るい声も、向日葵みたいな笑顔もあの日のまま。
まるであの日のまま時が止まったみたいに木下さんは変わりなくて俺は負い目を感じていた。
日吉はソーダアイスをかじりながら木下さんの話に相槌をうっていた。
もさっきみたいな警戒心はないみたいだ。
元々オカルト好きだから抵抗がないのかもしれない。
暑さで溶けだしたレモンアイスを落とさないように食べていたら木下さんが言った。

「海、行きたいね」
「そう言えば、約束だったよな」
「そうだね、花火大会も明日あるし行こうよ
明日は練習ないしね」
「ホント?
やった、嬉しい!」

ニッコリという効果音が聞こえそうなぐらい明るい笑みを浮かべた木下さんはすごく嬉しそうだ。
ホントは明日も練習はあるんだけど、こうして木下さんに会えたんだから1日ぐらい跡部さんも許してくれるはず。
日吉は少し不服そうだけど、諦めたのかため息一つついていこうか、と言った。
これで、いいんだよね。
あの日手を離した俺がやるべき事は償いなんだ。
木下さんがやりたいこと、全部叶えるのが俺なりの償い。
それで木下さんが笑ってくれるなら俺は何だってするよ。
だから、今だけはこの幸せにゆっくり浸らせて。
いつお別れが来てもいいように。