君ともう一度夏休み | ナノ



会いたい、が実現されるはずないんだ。
理解してたはずなのに、俺の頭は嬉しいの感情に支配されて冷静に考えれなかったんだ。

また、あの声に泣くのかな



湿度の高い、蒸し暑い夏。
蝉がそれに拍車をかけるように大音量で生きるために鳴く。
頭上から照りつける太陽は鋭利な刃物同然だ。
ぽたりと滴った汗を拭って木陰に足を進めた。
こんな中を影に入ることもなく歩くのなんて拷問に近い。
隣の日吉に暑いね、と言葉をかけるとタオルで汗を拭きながら夏だからな、という答えを返してくれた。
いくら夏だからと言ってもこれは暑すぎやしないだろうか。
ふう、と息を一つ漏らしてふと数年前を思い出す。
木下さんを最後に見た日もこんな日だった。
あの時手を離さなければ、彼女はまだ笑えていたはずなのに。
日吉と俺と木下さんであの日と変わらない日常を送れていたはずなのに。
どうして、自分の気持ちに嘘をついてまで木下さんの幸せを願ったんだろう。
考え込んでいるのが分かったのか日吉が気に病むなよと声をかけてくれたけど、これはどうしようもない。
だって、原因は俺にあるから。

「ねえ日吉」
「ん?なんだ?」
「木下さんに会いたいね」
「っ、あぁそう、だな…」

少し詰まった様に返す日吉に、やっぱり日吉も負い目を感じてるんだって分かった。
日吉のせいじゃないのに。
悪いのは俺なのに。
俺が視線を電柱の方に向けると、そこには一人の少女が立っていた。
艶のある黒髪をポニーテールに結い上げて、氷帝の制服を身にまとった少女に俺の中で嬉しい、という感情が沸き起こる。
日吉はあり得ないって顔でその少女を凝視してるけど。
電柱から体を離し、こっちへと歩んできた少女は言う。

「鳳くん、日吉くん、アイス食べに行こうよ」

あの日と変わらない、嬉しそうに弾んだ声に俺の目から涙が零れた。
また、君と会えたね木下さん。