ブレイブストーリー | ナノ



突然消えた日吉と謎の言葉を頭で繰り返しながら美羽は打ち身が痛む足を引きずりながら家へと向かっていた。
もう太陽は地平線の下へ沈み宵闇が訪れている。
母親に怒られてもおかしくない時間だ。
その上、顔や腕には擦り傷を作り、足には打ち身。
どこで何をしていたのかもこってりしぼられそうだ。
美羽は母親の言葉を予想してはあ、と一人小さくため息をついた。
家の前に到着し、ドアノブに手をかける。
そしてゆっくり音をたてないようにドアを引いた。
まだ美羽が帰ってきた事に気付いていないのか母親はおかえり、という声をかけない。
救急箱はリビングにあるため、リビングと廊下を隔てるドアを開く。
するとむっと嫌な臭いが鼻をついた。
どうしたものか、周りを見渡せば母親の姿がないことに気付く。
買い出しにでも行ったのだろうと解釈し一歩踏み出すと足にピンクのスリッパが当たった。
不思議に思ってその先を見てみれば、そこには真っ青な顔で倒れている母親がいた。

「お母さんっ…!」

肩を掴んで揺すってみるが全く反応がない。
それを見てパニックになったが頭の端に残っていた冷静さで何とか救急車を呼び、病院へ母親を運んでもらった。
あのむっとした臭いはガスだったのだ。
手術室か処置室かに運ばれた母親を泣きそうな目で見ていた美羽だったが、日吉の言葉が脳裏をかすめた。

《運命を変えたいなら幻世(ヴィジョン)へいけ》
《運命を自分で切り開くんだ》

「そう、だ…
運命を切り開くんだ…」

床にへたりこんでいた美羽だったが急に立ち上がり、走り出した。
目的地は幽霊ビル。
肩で息をしながら屋上へ向かう階段をのぼる美羽。
今、この階段は屋上に繋がっていない。
階段の先には重々しい扉があった。
そこへ数分かけついた美羽はあまりの大きさに呆けてしまった。
だが、自分の目的を思い出して向かい風のなか、扉に向かって足を踏み出した。

「こんな運命、間違ってる…!
運命を切り開くんだ…!」

自分に言い聞かせるように言った言葉に扉がぎいい…、と開いていく。
完全に扉が開くと、扉は美羽を吸い込んだ後ばたん、と荒々しく閉まってしまった。
後に残ったのは、静寂。
ただそれだけだった。

希望を開く