ブレイブストーリー | ナノ



某野先輩はロープでぐるぐる巻きにして身動きがとれない日吉に暴力をふるっていく。
古武術が得意な日吉にぼこぼこにされないようにするためだろうが、あまりに酷すぎる。
抵抗出来ない日吉に手加減なく蹴ったり殴ったりする先輩は、人間として扱う対象ではないような気がしてきた。
ゴミに違いない、廃棄物なんだ。
そう考えれば某野先輩に対する恐怖が消えてきた。
日吉を助けなくちゃ、見て見ぬふりなんて出来ない。
柱の影から躍り出て某野先輩の前に立ちふさがった。

「止めてください、何の恥さらしですか
人間として最悪ですね、ゴミですかあなたたちは
脳味噌の変わりにゴミがはいってるんですね、分かりました」
「何だと…!?」

私の正論が頭に来たのか、某野先輩は私を日吉の上に押し倒した。
その時、日吉が小さく呻き声を上げた。
彼に視線を向ければ、ガムテープで塞がれた口がモゴモゴと動いた。

“これ剥がせ”

それを理解した瞬間私の右手は日吉の口に貼られたガムテープに伸びていた。
一気に剥がしたら痛いだろうか。
そんな考えが頭をよぎったが振り切って一気に剥がした。べりり、と音をたてながら剥がれたガムテープ。
ガムテープを剥がされた事も彼らにはイラつく原因だったらしく私を力一杯蹴りつけた。
床に落ちた瞬間、衝撃で口の中が切れて鉄臭い味が口に広がった。
その痛みに耐えていた時、日吉が小さく何かを唱え始めた。
それは、徐々に大きくなっていく。

「大いなる冥界の宗主よ、我、盟約に則りここに請い願わん
闇と使者の翼の眷属よ、我ここに古の黒き血の契約の印を以て呼び掛けん――」

日吉が呪文のような物を唱え始めた瞬間、ぼんやり灯っていた電気が消えた。
それなのに、床がぼんやりと光っているため少し暗いだけで済んでいる。
床が水のように波打ち始めた。
それに気付いた某野先輩達が悲鳴をあげ始めた。
恐怖のまま悲鳴をあげる先輩は実に滑稽で、笑いを堪えるのが辛い。
私は日吉を、この非科学的な現象を怖いと思わない。
なぜだか、日吉はこうあるべきだと思ってしまうのだ。
私の考えている事を知らない日吉は続きを唱えていた。

「我に仇なす的に久遠の死の眠りを、解けぬ氷の呪縛を与え給え
サキュロズ、ヘルギス、メトス、ヘルギトス、出でよ暗黒の娘、バルバローネ!」

呪文のような物を唱え終わった瞬間、辺りが真っ白になった。
何が起こったのかは分からないが、一つだけ分かった。
日吉は魔法使いだと。
だからきっとこの状況を打破できる。
どこにそんな確信があるのかはわからなかったけど、そう思えた。


君は魔法使い