ブレイブストーリー | ナノ



あの一件の後は何事もなく、無事に一学期が終わった。
蝉の大合唱とギラギラ照りつける太陽の光の中、良くも悪くもない通知表を手に家路を辿る。
愛海は彼氏と帰ると言って足早に青春の夏休みへと歩いていった。
この薄情者、と内心罵ったが意味をなさない。
仕方なく自宅に帰るため一人でアスファルトの道を歩き出す。
比較的家が近いためさほど汗はかかない。
エレベーターに乗って自宅のある階へのぼり廊下を歩けば見慣れたスーツの男性がいた。
私の父親である。

「お父さん、久しぶり
出張だったの?」
「美羽…」
「お母さん、お父さんが帰ってくるの楽しみにしてたんだよ?
早く家に入ってよ、通知表も見てくれない?
お父さん、私の弱点見つけるの上手だし!」
「美羽、お父さんはもう家には帰ってこない」

その一言を聞いたとき、私は冷や水をぶっかけられたような錯覚に陥った。
この家に帰ってこないってどういう事?
単身赴任、するんだろうか。
でもそれなら少し家を離れる、と言えばいい話だ。
それなのに、なんでわざわざそんなこと言うの?
お父さんの言葉を頭の中で反復再生したが、全く意味が分からない。
理解力がないからだろうか。
ぼんやり立ち尽くす私にお父さんは少し躊躇った後、ハッキリした口調で言った。

「お父さんはお母さんと離婚して他の人と再婚するんだ」

離婚と再婚。
ドラマみたいな言葉が耳を掠めて私のなけなしの理解力では到底理解できない事が進められていたのだと知る。
お父さんに会えて喜んでいた先程までの自分が恨めしい。
呆然とする私の横を通ってお父さんは階段へと向かっていった。
カツン、カツンと革靴が階段を叩く音を私はぼんやりと聞いていた。


崩壊の音がする



お父さんが名前初変換…だと…!?