ブレイブストーリー | ナノ



もし運命が変えられるのなら何を望むのか。
億万長者になるのか、それとも世界を支配する主導者になるのか。
望みは銘々だろう。
大きな望み、小さな望み。
数ある望みは自分だけの力では実現不可なものばかりなのだろう。
私の望みだってその一つだ。

家族を取り戻したい。

離婚してしまった両親ともう一度昔のように暮らしたいのだ。
父が家を出て、母が倒れた。
危篤状態に陥った母を目にしたとき思った。
私には家族が必要だ、一人は嫌だと。
私は甘ちゃんなのだろうか。
離婚した両親ともう一度暮らす、なんて二人の意思を踏みにじるような行為だろう。
でも私はまだ中学生だ。
両親と仲良く暮らしたい、って望むのは当然と言えば当然なのではないだろうか。
手術室へ消えた母を呆然と思い出しながら最初に頭の中に浮かんだのはとある少年の言葉だった。

「俺は運命を変えるために幻世(ヴィジョン)に行く」

隣のクラスの日吉。
オカルト好きのミステリアスなテニス部部員。
幽霊ビルと呼ばれる管理者がおらず、朽ち果てたビルで聞いた言葉。
運命を変えるために。
その言葉はどういう意味なんだろうか。
幻世(ヴィジョン)って何?
そこへ行けば運命を変えられるの?
ぐるぐると疑問が頭を回る。
…考えたって仕方ない。
分からないことを考えるより、まず行動しよう。
私は電気が落ちて暗い病院の廊下を走り出した。
手術室の母を置き去りにして。
お母さん、待っててね、私また三人で幸せに過ごせるように頑張ってくるから。

全ては彼から始まったのだ。
物語のページは捲られた――…


始まりはオカルト少年