くりすます(愛され総司):幕末
「「くすります?」」
沖田と斎藤は声を揃え、首を傾げる。
そんな二人を見て藤堂は溜息をつく。
「ちげーよ。くりすます!!なんか西洋の行事らしいぜ」
「なんで平助がそんなこと知ってんのさ?」
「新ぱっつぁんの情報なんだけど…ぅわ!!」
「へっへー!!博識な俺にはしらねぇことなんてねぇのよ!!」
いつの間に後ろにいたのだろうか
永倉が誇らしげに口角を挙げながら藤堂の肩を組む。
「新ぱっつぁん!!重てぇって!!」
「なんだとぉ!!」
目の前で言い合いが始まりそうな二人に向けて斎藤が口を開く。
「…新八、そのくりすますとやらは、いったい何なのだ?」
「うん、初めて聞く単語だね」
斎藤たちの質問に永倉はまたまた得意げに答える。
「えっとなぁ!!くりすますってのは、西洋の神様ってのを讃える行事らしいんだがよ」
「何それ?お盆みたいなもんなの?」
沖田が聞き返す。
「ま、そんなもんだな!!でもよぁ、くりすますってのは、ただの盆みてぇな行事じゃねぇみたいなんだよ」
永倉がニヤニヤしながら答える。
「ん?何が違うの?」
首を傾げる沖田に向かって、永倉が口を開こうとしたとき
「なんか『さんた』って親父が、贈り物をくれるらしいぜ!!」
横から我先にと、藤堂が口を開く。
「んぁ!!平助!!今俺が言おうとしてたのに…!!」
「「三太?」」
またまた沖田と斎藤が首を傾げる。
「…西洋の人物の割には、随分と日本風な名を名乗っているのだな…」
斎藤の言葉に沖田が頷く。
「しかも、贈り物をくれるとか、如何にも怪しすぎない?西洋はそんなんで大丈夫なの?なんか益々外国を疑っちゃうよ」
沖田はやれやれといった様子で両手を上げる。
「いったい、その三太って人は、どんな人なのさ?」
「ん?あぁ、聞いた話によると…」
「あ、ちょっと待って、新八さん。ちょっと、そこのへたれわんこ!!」
沖田が少し遠くで洗濯桶と格闘している井吹に声をかける。
「その呼び方、やめろよ!!」
その声に気付いた井吹は、言葉や表情とは裏腹に、心なしか嬉しそうに小走りでやってきた。
「はは、なんかほんとに今の犬みたいだったよ、井吹くん♪」
「な!!//ほ、ほっとけよ!!」
顔を赤らめて睨む井吹に、沖田はその辺りに落ちている小枝を手渡す。
「?」
「今から新八さんが三太って男の特徴を教えてくれるから、地面に絵、描いてよ」
「三太?」
井吹は誰だ、そいつといった感じに眉をしかめる。
「まぁまぁ。なんか怪しい男らしいんだけどね」
「罪人かなにかなのか?」
「さぁ?罪人ではないんじゃないのかな?ま、お願いね。井吹君♪」
「〜//」
沖田に笑顔で頼まれれば、忙しいなんて言えなくて。
「…で?永倉。どんな奴なんだよ?」
「んぁ?えーっと…」
永倉が口を開く。
「髭を蓄えてて、帽子ってもんを被ってるらしい」
「帽子?」
井吹が動きを止める。
「…帽子って、なんだ?」
「いや…俺もそれはよく…」
視線を周りへ向けるが、皆初めて聞く単語に首を傾ける。
「…先ほど、新八は被ると言ったからな。笠のようなものではないのか?」
斎藤の答えに、皆なるほどといった様に声を漏らす。
「…で、なんか『となかい』っていう生き物を使って贈り物を配っていくらしいんだ」
「「となかい???」」
皆、またもや怪訝そうな顔をする。
「おぅ!!なんか馬の鼻が赤くなって腫れあがってるような生き物らしいぜ!!」
「馬の鼻が…??」
皆、その生き物を想像する。
「うぇーー!!きっも!!新ぱっつぁん、そいつなんか気持ち悪ぃって!!」
藤堂は思いっきり顔をしかめる。
「はは、想像したら、なんかやっぱり変な男だね。だって見てよ」
沖田は井吹の描いた絵を指さす。
そこには、髭を蓄え、笠を被り、歪な鼻の馬に乗っている、如何にも怪しい男が描かれていた。
「僕、こんな男が近づいてきたら、迷わず切っちゃうかな」
沖田は可笑しそうに笑いながら、呟いた。
「安心しろ。総司をこの男に触れさせるつもりはない。」
斎藤が沖田を見据え、言葉をかける。
「はじめくん…」
やや甘い雰囲気が漂う中、藤堂が沖田の前に進み出た。
「いんや!!総司は俺が守るっつーの!!こんな親父に、触らせてたまるかよ!!」
「な!!平助ずりーぞ!!総司は俺が…っ!!」
永倉も言葉を発する。
わいわい言い合いになる中で、総司がやや呆れながらそれを見ていると…
「!!」
突然後ろから抱きしめられる。
「悪ぃな。総司には、俺が指一本、触れさせねぇよ」
「…左之さん?//」
突然現れた赤毛に、皆一斉に敵意の目を向ける。
「おじさんが一番あぶねーんだよ!!総司から離れろ!!」
「そうだそうだ!!この変態じじぃが!!」
「な!!平助はともかく、新八!!てめぇにじじぃ呼ばわりされたくねぇな!!」
原田はしぶしぶ沖田から離れる。そして…
「えーっと…さっきのはほんの冗談じゃねぇか、な?だからそんな怖ぇ顔すんなって…」
後ろでじっと睨む斎藤と井吹をなだめた。
「で?さっきから騒がしかったが、なんの話してたんだ?」
「あのね、くりすますっていう西洋の行事の話。」
事のいきさつを説明すると、原田はにやりと笑った。
「なんだ。っつーことは、くりすますってのは宴会なのか?」
「なんでいっつもそーなんだよ、左之さんは!!今の話聞いてなんで宴会に…」
「いや、宴会の日かもしれねぇぞ?」
永倉の言葉に、皆が顔を向ける。
「なんでも、くりすますってのは、胡散くせぇ三太って親父の徘徊の日でもあるが、その…大切な人と過ごす日でもあるみてぇなんだ」
「「大切な…人と?」」
皆が一斉に沖田を見遣る。
「総司。今日は、俺と…俺と過ごしてはくれぬか?」
「おい!!斎藤!!ずりぃぞ!!総司は俺と…」
「馬鹿言うんじゃねぇよ、新八。」
「左之さんもさりげなく総司の手ぇ握るんじゃねぇよ!!」
わいわいと言い合いが始まる。
「えーっと…」
沖田が困惑した様子で頭を掻く。
「…お前は、どうしたいんだ?」
少し呆れ気味の井吹が沖田に尋ねる。
「…僕は…」
沖田が少し考えるような仕草をした
「だって、これは西洋の行事で…」
そのとき…
「てめぇらうっせーぞ!!!会合から帰ってきてみりゃ、何幹部総出で騒いでやがんだ!!」
全員が言い合いを止め、恐る恐る声のした方向へ振り返る。
そこには、まさしく鬼のような形相の副長と、それを宥める局長が立っていた。
「まぁまぁ、歳。そんなに怒らなくてもいいじゃないか。」
「近藤さん…しかし…」
「それで、総司。みんなやけに楽しそうだったじゃないか。何を話してたんだ?」
近藤が沖田に向けて優しく問いかける。
「近藤さん、あのですね…」
沖田はくりすますのことを近藤と土方へ話した。
近藤はおぉ、と笑う。
「西洋の行事というのには少々心苦しいが、大切な人と過ごす日というのは、とても素敵じゃぁないか」
その言葉を聞いて、沖田はパッと顔を挙げる。
その嬉しそうな沖田の顔を見て、近藤は
「みんなで、そのくりすますとやらを祝おうじゃないか」
「…はい!!」
沖田が無邪気な笑顔を見せた。
その顔を見て、皆も釣られて笑顔になる。
***
「総司、寝ちまったなぁ…」
「今日はいつになく呑んだからなぁ…俺もあったま痛ぇ…」
「このままでは総司が風邪を引く。布団を…」
斎藤がそっと布団をかける。
沖田はぐっすり眠っていて、起きる気配はない。
「そういや、平助。あれは買えたのか?」
「あ、うん!!まったく、新ぱっつぁんが贈り物のこともっと早く言ってくれてたらもっといいもん買えたのによ」
「しょーがねぇだろ…俺だって、書物見つけたの今日なんだからよ」
「そうだ!!龍之介!!さっきの三太の絵、これに描いてくれよ!!」
「あ…おぉ!!」
井吹はさらさらと袋へと筆を走らせる。
そして、書き終わると沖田の枕元へとその袋を置いた。
「朝起きたら、総司、喜んでくれっかな?」
「あいつのことだからな、素直に喜ぶかはわかんねぇな」
そんな他愛無い話をしながら、皆で沖田の寝顔を見つめる。
『大切な人と過ごす日』
皆、大切な者の幸せそうな寝顔に頬を緩め、大切な者たちと笑い、夜を過ごした。
*はっぴーめりーくりすます*
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