隣部屋(沖斎)

*剣道部で山奥の道場に練習試合に来ました。顧問は土方先生。拙宅にあるHGMとは別物です!!

===

稽古が終わり、僕たちは今日の宿に移動した。
そこは結構古い感じのところで、田舎の家みたいなところだった。
いわゆる民宿かな。

中に入ると、笑顔の老夫婦が僕たちを出迎えてくれた。

「ようこそ、遠いところをご足労様でした。」
「大勢ですみません、今日はよろしくお願いします。」

土方先生が笑顔で挨拶する。
老夫婦は先生の笑顔に見惚れてしまったようで…

他人に愛想振り撒くの上手だよな

なんて心で毒づきながら僕は荷物を床へ下ろす。

その隣で一君も重い防具やら荷物やらを下ろしている。

「一君、大丈夫?疲れてない?」
「あぁ。そういう総司は大丈夫なのか?今日はほとんどの試合をこなしたではないか。」
「大丈夫だよ。」

「一君が応援してくれたからね。」

そう耳元で囁けばたちまち変わる頬の色。

僕はこの瞬間を見るのが好きなんだ。
君が僕の言うことに反応してくれているのがわかるから。

僕たちはお互いに顔を見合わせる。

「よし、全員集合しろ!!」

この空気を壊すかのように土方先生の号令がかかる。

ほんっと、タイミングもなにもあったもんじゃないよね

全員が集合したのを確認し、土方先生が話し始める。

「今日の部屋は全部二人部屋になっている。」

それを聞いて僕は心の中でガッツポーズした。

二人部屋だったら一君と二人っきりになれる!!

実は僕たちは今付き合っている。
男同士の恋なんて周りにはなかなか理解されないから、誰にも話してはいないけど。

だから、遠征とかで泊まることになっても大抵大部屋だったし、みんなに内緒だしで二人で居られることなんてあんまりなかったんだ。

絶対一君と一緒の部屋になろう。

そう思っていた矢先…

「斎藤は今日俺と相部屋だ。手伝ってほしいこともあるしな。」
「…ちょ!!」

僕は慌てて土方先生の話に入る。

「ん?なんだ総司、問題でもあるのか?」
「なんで一君が土方先生と相部屋なんですか!?普通先生と生徒は別でしょ!!?」

そう言って食って掛かるも、先生は溜息をつくばかりで。

「…この民宿にこれだけ大勢で押しかけてるんだ。少しでも使う部屋を少なくしようと思っただけだ。」

そう言って僕を軽く睨む。
僕も思いっきり睨み返してやった。

「…それなら、一君でなくてもいいと思うんですけど…」
「斎藤は今日の試合をきちんと分析してある。その意見を交えて、明日のメンバーを決めるんだ。文句あるのか?」
「そんなの!!」
「…総司」

何か言い返そうとした僕を、一君が名前を呼んで制する。

隣の君を見ると、一君は厳しい顔をしていた。

「駄々をこねるな。皆が迷惑している。」

ハッと気づいて周りを見ると、後輩や仲間もみんな、不思議そうに僕を見ていた。

僕たちが恋人っていうのは周りは知らなくって。

改めて一君を見るとほほ笑んでくれた。

「…わかりましたよ…」

僕はしぶしぶ了解した。

***

「で、結局は平助となんだよねー。」
「なんだよ!!俺じゃないほうがよかったのかよ!!」

結局僕は平助と相部屋になった。

別に平助が嫌なわけじゃないけど、思わずため息が出てしまう。
まぁ、平助はいい意味で鈍感だし、このため息の意味には気づかないだろうけど…

「今日総司機嫌悪いなぁ…。あ、そうだ、俺そろそろ風呂行くけど、総司どうする?」
「僕はもうちょっとしてから行くよ。ゆっくり浸かっておいでよ。」

そっか、じゃぁお先♪と、意気揚々に平助は出て行った。

ひとりで部屋に残って、携帯を開く。

メール…送ってみよう。

『一君。今何してるの?土方先生にいじめられてない?』

メールを送ってまたため息。
もしかしたらまだ話し込んでて返事が来ないかもしれない…

そう思うと、一君を先生に取られた気がして、ちょっと寂しくなる。
僕もお風呂行ってこようかな、と立ち上がろうとしたとき、携帯から一番聞きたかったメールの受信音。

慌ててメールを開く。

『苛められてなどおらぬ。今、土方先生は部屋の外で電話中だ。』

たったこれだけの文でも返ってきたのが嬉しくって、すぐに返事を打つ。

『ならよかった。一君、部屋どこなの?僕は202なんだけど』

メールを返して窓から外を見る。
空気が綺麗なんだろうか、星がすごくたくさんある。
都会では見れないようなこの景色を、一君と一緒に見たかったな…

そう思ったとき、急に壁から

コンコン…

と音が鳴る。

その遠慮がちな音は一回きりで鳴らなくなった。

何かあたったのかな?と思っているとまた君からの受信音。

『隣だ』

その一言で理解する。
さっきの音は一君からだったんだ。

知った途端に嬉しくなって、僕も壁を叩き返す。

コンコン…

『一君、隣だったんだ!!なんかそれだけで嬉しいよ!!』
『俺も驚いた。総司が隣にいると思うと不思議だな。』
『会いたいよー。一君。』
『土方先生がいつ電話から帰ってくるかわからぬ。だから部屋を空けれぬのだ。』

ほんと、あの人はどこまでも邪魔してくれるんだから…

そう思ってまた外を見る。

あ…

『一君!!窓、開けてみてよ!!』

そうメールを送り、自分も窓を開ける。

少し経って、カラカラと隣の窓が開く。

「一君!!」
「総司…」

たかがほんのちょっと顔を見て話せなかっただけなのに。
近くにいて会えないことがこんなにも苦しいなんて思わなかった。

「なんか久しぶりだね!!」
「ふ。ほんの少しだったではないか…まったく…」

そう言う一君もどこか嬉しそうで。
僕たちはお互いに笑いあった。

「…ね、見てよ一君。星、綺麗だよ。」

僕の言葉に誘われるように、一君は空に目を向ける。

「…ゎ」

一君の息をのむ声が聞こえてきた。

その蒼瞳は嬉しそうに輝いていて。

「…すごいものだな。星というのはこんなにも綺麗だったのか…」

君が目を細める。

「この景色を、一君と見たいって思ってたんだ。一緒に見れてよかった。」
「…総司」

お互いに見つめあう。

本当ならキスをしたかったけど、距離があったから仕方ないよね。

そのとき

「すまねぇ、斎藤。話の途中で…って…どうしたんだ?外なんて見て…」

またもや土方さんの声が邪魔をする。

「す、すみません、先生。何でもありません。」

そう言って窓を閉めようとする一君を小声で呼び止める。

ほんの一瞬、動きを止めた一君に、
彼にだけ聞こえるように囁いた。

(だいすき)

暗闇でもわかる、僕の好きな、君の変化。
それに思わず口元が緩んでしまう。

そして伏し目がちになる君。
小さく動く口。

(おれもだ)

カタンと窓が閉まる。

僕も隣にいる君を想いながら、ゆっくりと窓を閉めた。

===

なんか、隣にいるのに会えないってもどかしいですよね´`

お付き合いありがとうございました!*

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