*前夜(龍沖)

「沖…田…、も、無理…」
「は…、何言ってんの?僕のを受けたいって言ったのは…君だよ?自分の言葉には責任持ってよね。」

そう言って沖田は額に滲む汗をぬぐう。

「く…はぁ、でも、これ以上やったら、俺…もぅ…」

息がしにくくなってきてなって、俺は必死に沖田を説得する。
沖田は面白くなさそうに唇を尖らせると、ため息交じりに答えた。

「はぁ…。まぁ、僕も無理させすぎちゃったかな…?じゃぁ、最後にもう一回だけ突かせてくれない?」
「な!よりによって…!!」

俺が顔を上げると目の前にはすでに沖田がいて…





「突きーーーー!!」
「ぐぇ!!」

俺の喉元にはきれいな突きが入った。

***

「だから!!俺は初心者なんだよ!!」

俺は今まで頭の重りとなっていた面を外す。
頭が解放され、夜風が頬を撫でる。

「でも、元立ちをやりたいって言い出したのは君なんだし。それぐらいちゃんとやってもらわないとね。」

沖田も手拭いで汗を拭う。

ここは学校の剣道場。
と言っても、すでに俺たち以外は帰っちまってるけど。

明日は沖田たちの大会がある。
何か力になれないかと思って、沖田の稽古を受けたいと言い出したのは確かに俺だ。
そう言われると、確かにもう何も言えなくなってくる。

「はぁ…。まぁ、少しでも役に立てたんなら、良しとするか。」
「うーん、役に立ったのかな?むしろ、僕一人で素振りでもしてた方がよっぽど練習になったかもね。」

そう言って悪戯に笑う沖田の横顔は、いつものあいつとはどこか違っていて…

「沖た…」
「さて、明日も早いし、もう帰ろっか。」

声をかけようとしても、触れるなと言わんばかりに流されてしまう。

ひとりで部室へ向かってしまう沖田。

「ま、待てよ沖田!!」
「何?僕、もう稽古は十分なんだけど…」
「いや、そうじゃなくて…」

俺は自分の着けている胴の紐に手をやる。

「胴紐がほどけなくなっちゃって…」
「はぁ?」

俺の申し出に呆れ顔になる。
それでも、胴紐に悪戦苦闘する俺の前にしゃがんで

「あーもう、そうするから余計絡まるんだよ。ちょっと貸して…」

慣れた手つきで紐を外していく。
でも…

「…」

よく見なきゃ気付かないぐらいだったけど、沖田の手は少し震えていて。

外し終えると、沖田はすぐに手を引っ込める。

「…じゃぁ、早く着替えようよ。」

そう言ってまた去ろうとするあいつを、放ってはおけない気がして。

「沖田!!」

俺はあいつの腕をつかむ。

あいつは足を止めると、俺の方に振り返る。

「…だから、何?」

そういったあいつの顔は、やっぱりどことなく元気がなくって。

「緊張…してるのか?」

自分でも野暮なことを聞いちまったと思う。

沖田は苦々しげに顔を歪める。

「この僕が、緊張なんてするはずないでしょ?馬鹿にしないでくれるかな?」

そう言って、俺の手を振り切ろうとする。

違うんだよ、俺が伝えたいのはこんな事じゃなくって…!!

グイッ

「ちょ…//」

気が付いたら、沖田を抱きしめていた。

道着や汗の匂いが鼻を擽る。
それは不快なものではなく、むしろ心地よくも感じれるもので…

なんとなく離したくなくて、さらに腕に力を込める。

「井吹君…?」

沖田が不安げに声をかけてくる。
自分からこんなことしておいてなんだが、何を言えばいいのか全くわからなくって。

「お前なら、大丈夫だから。俺は知ってるから…。お前がどれだけ、頑張ってたか。」
「…」
「絶対…絶対!!大丈夫だから!!」

なんて軽率な言葉なんだろう。
何を根拠に、こんなことを俺はこいつに言っているのか。

ひとりでに、自虐的な笑みが零れる。

「は、何言ってんだろな。そんなの、お前が一番わかってるだろうにな。」

沖田の身体を抱く腕を解こうと力を緩める。
と、

ぎゅ…

今度は沖田が、俺を力強く抱きしめてくる。

「おき…」
「君ってさ、いっつも自分のことだけ言って逃げようとするよね。」

沖田の顔を覗き込む。

あいつの顔は、さっきとは違っていつもの沖田に戻っていて…。

「言い逃げなんてずるいよね。僕の話はいっつも探ろうとはしないし。」

口角を上げて、いつもの悪戯な笑みを浮かべている。

「…すまねぇ。」

思わず目を逸らしてしまう。

耳元でクスリと笑う声が聞こえてきて。

「でも、そんな君だから、聞いてほしくなるんだよね。」

そう言って、今度は俺の顔を覗き込んでくる。

「ほんとはね、少し、怖かったんだ。」
「怖かった…?」
「うん。自分が負けるとは思ってないんだけど、なんていうのかな…。伝統の重さっていうのかな。」
「重さ…」
「うん。この学園って、剣道部は強豪校って有名でしょ?」
「あぁ。もう全国でも優勝するぐらい、強えぇんだろ?」
「うん。土方先生とか、左之先生とかの代でも全国で優勝してるし、去年も先輩たちは全国に行ってるんだ。」
「そうなのか…」
「…でも、だからこそ、比べられるのが怖い。」
「比べられる…?」

沖田がゆっくりと頷く。

「もし、試合に勝てたとしても、“薄桜学園はレベルが落ちた”とか、“残念だ”とか、言われたくない。そう思うと、変に気合が入っちゃって、自分の試合ができなくなっちゃうんだ。」

そういう沖田は少し悔しそうで。

「まぁ、そういうプレッシャーに悩まされるなんて、僕もまだ稽古が足りない証拠だと思うけど。」

そう言ってほほ笑むあいつはやっぱり少し震えていて。
俺は自分より少し背の高い沖田の頭をゆっくりと撫でた。

「俺は、そういう伝統とか、重みとかってもんは感じたことねぇし、わかんねぇけど」

沖田は気持ちよさそうに目を細めながら、俺の話に耳を傾ける。

「お前はお前だろ。」
「…え?」

沖田は目を少し見開く。

「だから、土方先生も、何も関係ねぇよ。お前はお前なんだから、自信を持って試合すりゃぁいいんじゃないのか?お前の剣は、素人の俺から見ても、すげぇと思う。」
「…」
「まぁ、うまく言えねぇけど。」

そう言って頭をポンポンと叩く。

「…く、く…あははは!!」

いきなり沖田が笑い出した。

「??」

俺は沖田の顔を覗くために少し距離を取る。
あいつの目にはうっすら涙も滲んでいて。

「あはは。ほんと、君には勝てないよ。ほんっと、すごいや!!」
「な、なんでそんなに笑うんだよ!?//」

俺は少し恥ずかしくなって、沖田をキッと睨む。
それでも沖田は笑うのを止めなくて。

「ごめんごめん。なんか、今まで悩んでた自分が馬鹿らしくなってきて…。そっかそっか、僕は僕だもんね。」

やっと落ち着いてきた沖田の顔は、とても晴れやかで。

「ありがと。お陰で元気出た。」

短く、そう礼を言ってくれた。

俺は、沖田の役に立てたのかは分からないけど、あいつが俺の言葉や行動で元気を出してくれたんなら、こんなに嬉しいことはない。

「あーぁ。安心したらおなか減っちゃった。ねぇ、帰りにどっか寄って帰ろう?」
「え!?いいのかよ??明日試合だろ??」
「腹が減っては戦はできぬってね。」
「お前なぁ…」

先に歩く沖田の背中を追いかける。

その背中はもう、迷いを感じさせなかった。

===

…胴紐とか、わかりますか?
自分は剣道してるんで当たり前に使うことでも、皆さんがわからなかったらどうしようと思って><
わかんなかったら教えてください;;

高校時代の部活を思い出してみました。
“自分は自分”って言ってもらえたときは嬉しくって(*^^*)
それを伝えたかったんですが、うまく伝わったでしょうか…><

龍之介は言葉じゃなくって気持ちで伝えるほうが得意だと思うんです。
沖田さんもそれを感じ取るような、そんな二人であってほしいなぁと(*^^*)←

読んでくださってありがとうございました!!

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