*台風(龍沖)

ビュォー…
ザー…ザー…

「うわぁ…すげぇ雨だな。まぁ、台風だしな…」

自室で独り言をつぶやく。
今日は台風が上陸しているため学校は休み。
今まではこのような休校はかなり有難く感じていた龍之介だが、今はそうは思えなかった。

(沖田、一人暮らしだったよな…。こんな天気だが、あいつ、平気なのか…?)

そう、外に出れないということは愛しい恋人と会えないということ。

龍之介はまた外を眺め、重いため息をついた。

(何…してんのかな…)

無意識に考えてしまうのは恋人のことばかり。

はぁー…

もう本日何度目かわからないため息を吐き出したとき




ドーン!!!!!




ものすごい音とともに地響きが起こる。

雷が近所に落ちたらしい。

(おいおい、勘弁してくれよ…)

今は昼間だというのに雲が厚く空を覆っているために外は夜のように暗い。
それに加え、今の落雷で停電してしまったらしい。

(これ、本気でヤバいんじゃねぇのか?)

ふと先ほどまで考えていた人物のことが頭をよぎる。

(こんなに真っ暗で、あいつ大丈夫かな…)

龍之介は手探りで自分の携帯電話を探し、メモリーを開いた。

*************

(うわぁ…、最悪…。停電とかほんと勘弁してよ。)

沖田は自室でうずくまっていた。
辺りは暗くて何も見えず、生憎懐中電灯も持ち合わせていなかったのだ。

(これじゃ、何もできないじゃん…)

特に何をしていたわけではないが、昼間の闇という恐怖が沖田の気持ちを掻き乱す。
それに加え、外は嵐だ。外出もできなければ、追い打ちをかけるようにさらに雷が鳴り響く。

手には携帯電話を手にしていたが、誰にも連絡はしない。
男の自分がこんな停電や台風如きに怯えていると知られたくはなかった。

何もできず、沖田は体育図座りをしている自分の膝に顔をうずめた。
その時

♪〜♪〜

聞きなれた着信音が鳴り響く。

沖田は顔をあげ、手元の携帯を見つめる。

(どうして…君はこうもタイミングがいいんだろう…)

沖田は携帯の通話ボタンを押し、耳に近づける。
携帯の向こうからはもしもし、と、今一番聞きたかった声が聞こえてくる。

「…何?」

気持ちとは裏腹の冷たい声。
もっと素直になれないものかと、自分に溜息をつく。

それを沖田の機嫌が悪いと捉えてしまった龍之介は電話越しに慌てている。

『い、いや…さっき雷落ちたろ?俺のとこは停電しちまったんだが、お前のとこはどうだろうと思ってな…』
「あぁ、そんなこと。僕のところも停電しちゃったけどね。まぁ、今からどうせ寝ようと思ってたとこだし。別に構わないけど。」

沖田はわざとシレッと答える。自分の恐怖が伝わってしまわぬように。

その時

ドーーン!!!!!!
「ひっ…」
『!!』

さっきよりも大きな雷がさらに落ちたようだ。
これではしばらく電気は復旧しそうにない。

『沖田?今また雷落ちたな。大丈夫か?』
「あ、当たり前じゃない。何?井吹君、怖いの?」
『いや、俺は平気だが…っと、ちょっとすまねぇ。』
「?」

沖田は電話越しに耳を澄ませる。

(おい、犬。何をしているのだ。ん?電話か?犬のくせに女でもできたか。生意気な奴め。)
(ち、ちげーよ!!で、何の用事だ?)
(ふん。この雨で何も出来ぬからな。酒を飲もうと思ったが切れておるのだ。買ってこい。)
(は!!?この台風の中行かせんのかよ!!?)
(なんだ?俺に口ごたえでもする気か?)
(…じゃぁ、……)

電話越しの声が外の雨音に掻き消されてうまく聞こえなくなった。

『わりぃ、沖田。今からちょっと出かけなきゃいけなくなっちまった。』
「は?こんな嵐の中出かける気!?芹沢さんのお願いだからって無茶だよ!!」

先ほどよりもさらに強まっている雨足、そして風に雷。

沖田はいくらなんでもあんまりだと主張する。

『大丈夫だって。心配してくれてありがとな。じゃぁ、行ってくるから。』
「ちょっと、井吹君!!」
『あ、それと…』
「?なにさ?」

龍之介が言葉を続ける。

『後で行くから。あとちょっと待ってろよ。』
「は?」

そう言うや否や、龍之介は電話を切ってしまった。

(え?どういうこと?)

********


夕刻が近づいてくるにつれ、辺りはさらに闇に包まれていく。
雨風はまだ弱まりはせず、窓の外はやはり嵐であった。

(井吹君…)

沖田は成す術なく部屋にうずくまり、愛しいものの名を思った。
その時

ピンポーン…

玄関で呼び出し音が鳴る。

(え?まさか…ホントに…?)

沖田は手探りで玄関まで行くと、風圧により重い扉をこじ開ける。

そこには
ずっと想っていた愛しい者の姿があった。

「すまねぇ、遅くなっちまった。」

そう言って玄関に入り扉を閉める龍之介はずぶ濡れで。また、片手には懐中電灯、片手には無残に反対向いた傘が握られていた。


「井吹君!?なんで来たのさ!!こんな天気の中外に出るなんて、有り得ないんだけど!!」

つい声を荒げる沖田に龍之介はバツが悪そうに笑う。

「いや…お前が心配でさ。雷、苦手なんだろ?さっき電話で怖がってたからさ。」
「え…」

自分は確かに大きな雷が落ちた時に驚いてしまったが、そんなわずかなことさえも感じていたなんて。

「…」

沖田は思わず俯く。
龍之介は言葉を繋げた。

「芹沢さんが酒買ってきたら今日は泊りに行ってもいいって言ってくれてな。」
「え?」

沖田は顔を上げる。
龍之介は優しく微笑みかけた。

「今日はたぶん停電直んねぇだろうし、お前、絶対寂しいだろうと思ってな。…迷惑だったか?」

そう言って顔を覗き込んでくる龍之介に、沖田の心臓は跳ね上がる。

そして無言のまま部屋へと引っ込んでしまった。

(やっぱ、鬱陶しかったかな…?)

龍之介が少々落ち込んで玄関を出ようとしたとき、

ダダダダ…

沖田が手にバスタオルを持って走ってきた。

「とりあえず!!まずは体拭いて、お風呂入って!!そんなずぶ濡れじゃ風邪引いちゃう!!」

沖田は半ば強引に龍之介の髪の毛を拭く。
そして龍之介から懐中電灯を奪うと、風呂へと龍之介を押し込んだ。

(これは…居ていいってこと…なんだよな)

龍之介は素直でない恋人の厚意を受け取り、真っ暗な中、大人しくシャワーを浴びた。


風呂から上がると、洗面台には龍之介用であろう着替えが置かれていた。




「服、ありがとな。助かった。」

龍之介の懐中電灯のおかげで見つかったのであろうロウソクを二人で囲み、龍之介は沖田に礼を述べる。

「いいよ、それぐらい。裸でいられても困るしね。」

沖田は相変わらず冷たい口調のまま。
龍之介は軽くため息をつくと、沖田に寄り添い、肩を抱いた。

「!!な…///」

沖田は驚いて身を引こうとするが、龍之介はさらに腕に力を込める。

「なぁ、沖田。…俺には弱い部分…、見せてもいいんだぜ。」
「…」
「俺は…どんな時もお前の支えになりたいんだ。お前に…頼ってほしいんだからな。」

龍之介の口から紡がれる優しい言葉に、沖田も体の力が抜ける。
そして、龍之介の背中に腕を回す。

「…ほんとは…ちょっと…怖かったかも…しれない…」
「…うん」
「…君が来てくれて…嬉しかった…かも…」
「はは、かもってなんだよ。」

龍之介の笑顔がロウソクにより映し出される。
本当に、彼は優しい顔して笑うのだと、沖田は思わず見とれてしまった。

龍之介が沖田の視線に気づく。

ニコリとほほ笑む顔に吸い込まれそうになる。

二人の距離が縮まっていく。
そしてロウソクにより映し出された影が重なる。

二人の初めてのキスだった。


もう、暗闇も雷も怖くはない。
こんなに温かく包み込んでくれる、愛しい恋人が傍にいるのだから。


===================
今日の台風ネタです。
私の地域は暴風警報は出てたけど全然平気でした。
みなさんのところは大丈夫でしょうか?><

龍之介は沖田さんのちょっとした反応も逃さないと思うんです。
その鋭さに、沖田さんも素直にさせられていく…といいな(*^Д^*)笑

初めてキスした二人。
今日はキスまでですよ!!(>Д<)笑
その先はお預けです!!

龍之介のおかげで沖田さんは安心して寝ちゃったのかも。

(沖…た…)
(スースー…)
(寝ちまってるし…///)

的な。

龍之介は優しく布団をかけてあげることでしょう(>_<)
追加妄想失礼しました//

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