*帰路(龍沖)

「き、今日さ!!一緒に帰らないか??!」

いつものように君にちょっかいを出して教室移動をしようと歩き始めたとき、君は叫んだ。

一君も平助も、目を点にしていた。
まだ僕たちが付き合い始めたことは言ってなかったから。

「…また連絡する…」

そうそっけなく返事をしてひとりで先に進む。
顔が熱を持つのを感じた。





「総司!!お前龍之介と付き合ってたのかよ!!?」
「うむ…聞いておらぬな。」

昼休み。
いつものように三人でご飯を食べる。

そこの話題に挙がったのはもちろん、僕と井吹君のことで…。

興味津々といった様子の二人に質問攻めにされていた。

「うーん…まぁ、なりゆきで…ね。」

言葉を濁すと、平助がさらに僕に詰め寄ってくる。

「成り行きってなんだよー!!超気になんじゃん!!どっちが告ったんだよ?」
「告ったっていうか…まぁ一応は向こうからだけど…」


あの夕方のことを思い出す。

僕に気持ちを気づかせてくれた、勇気を出して気持ちを伝えてくれた君を。

抱きしめられた感覚を思い出し、思わず俯いた。
僕の頬は赤く染まっていく。

その様子を見て、平助がニヤニヤと笑う。
一君も口元を緩ませながら僕を見つめている。

僕はその空気を誤魔化すように、購買で買ったパンを思いっきり頬張った。




『僕今日も部活だから、一緒には帰れない。』

絵文字もない素っ気ないメールを君に送る。
もうすぐ部の大会がある。
この高校は剣道部の強豪校で知られていて、全国で優勝もするような学校だ。
その学校のメンバーに僕は入っている。
今、手を抜くわけにはいかなかった。

〜♪

君からの着信。

『芹沢さんの用事があるから、部活終わるころに迎えにくる。』

思わず胸が高鳴る。
わざわざ、また学校に戻ってきてくれるっていうの?

携帯を握りしめる。

『そんな面倒くさいことしなくていいよ。』

気持ちとは真逆のメールを送信する。

以前聞いたが、井吹君は近所でも有名なお偉いさんのところで家事手伝いをしているんだとか。
しかもその芹沢さんって人は傲慢な人で、家事手伝いでもかなりきついらしい。

井吹君はきっと大丈夫だと言うだろうけど、きっと大変なはずだ。

『わかった。じゃあまた今度な。』

君からの返信。
その返事に、自分で送っておきながらも少し寂しさを感じた。


***
今日の部活も一段と厳しかった。
大会前ということもあり、近藤学園長をはじめ、土方先生、左之先生、新八先生など、試衛館という道場で剣道をしている先生がみんな稽古を付けに来てくれた。

おかげでいい稽古ができたけど、足はもうパンパンだった。

「あー!!俺もう動けねえ!!」
「僕も…」
「だらしないぞ、二人とも。」
「そう言う一君も足震えてんじゃん!!」

僕と平助と一君は部活も同じだった。
三人で重い足を引きずりながら更衣室に行き着替えを済ませる。

道場の鍵を閉め、門に向かって歩いて行った。

「でも、先生たちはやっぱすげーよな。俺らでもやっぱ敵わねえもんな。」
「僕は今日新八先生から一本取ったけどね。」
「あー、あれはきれいに決まったよなあ。」
「新八先生も連日の稽古で疲れがたまってらしたのだろう。」
「いや、新ぱっつぁん、昨日の二日酔いが効いてたみたいだぜ。」

他愛もない会話をしながら歩いてく。
校門の出口に差し掛かるところで、僕らより少し先を歩く一君が何かに気づき、歩みを止めた。

辺りはもう真っ暗で、あんまり先が見えてはいなかった。

「ん?どうしたの、一君?」

僕は彼に尋ねた。
一君は振り返り、フッとほほ笑むと

「すまん、総司。今日はもう失礼する。」

そう言って平助の手を引いて足早に歩いて行ってしまう。

「え…!?ちょ…」

平助もわけがわからないようで、戸惑いながらも一君に引かれて帰っていく。

僕は一人取り残されて、疑問に思いながらも門を出た。

何気なく横を見る。
そこには…


汗だくの君の姿があった。

「井吹君…」
「あ、沖田。練習お疲れ。」

そう言って君は僕に笑いかける。

「今日はもういいって言ったじゃない。なんで来たのさ。」

思わずきつい口調になる。

「なんだよ。別に、用事も終わったし、暇だったから来ただけだ。」


嘘ばっかり。その汗はなんなのさ。

君は必死に押さえてるつもりでも、額に汗は滲んでいるし、肩で呼吸もしている。

嘘が下手だなぁ。

つい口元が緩んでしまう。

その様子を見た君も、安心したように目を細める。

「あ、そうだ。沖田、これ。」

君から手渡されたのはスポーツ飲料のペットボトル。

「これって…」
「芹沢さんとこの買い出しついでに買ってきた。…今日、暑かったしな。」

そう言ってそっぽを向く君。

付き合い始めて、彼の優しさがさらにわかるようになった。
さりげない優しさを自然に出せるのは君のすごくいいところ。

「あ、ありがと…」

素直にお礼を言うと、君は
明日は雨だな、って笑う。

なんだか気恥ずかしくなって君を睨むけど、彼はさらに笑顔になるだけで。

僕はさっさと家の方向に歩いていく。

「あ!おい、沖田!!」

後ろから呼ばれて振り返る。
すると、今まで暗くて見えてなかったけど、井吹君は自転車を押して小走りにやってきた。

「疲れたんだろ?足ふらふらだし…。ほら、後ろ乗れよ。」

そう言って自転車に跨り、僕の横に付ける。

まさかここまで考えてくれてるなんて思わなかった。
僕が驚いて動けずにいると、君は優しく微笑んで、僕の手を取る。
そしてそっと自分の肩に乗せた。

「…しょーがないな…。乗ってあげるよ!!」

僕は勢いよく自転車に飛び乗った。
早く君の後ろに隠れないと、顔の赤さに気付かれそうだったから。

「わぁ!!もっとゆっくり乗れって!!」

君は自転車を立て直すと、ペダルをこぎ始めた。

「しっかり掴まってろよ。」

このような声掛けすら愛おしい。

「井吹君って、お節介だよね。」

胸の高鳴りを押さえて言う。
君はまた笑いながら答える。

「俺が好きでやってるんだからいいだろ。…少しでも、お前と居たいんだよ。」

胸がさらに高鳴る。

「…ばっかじゃないの。学校でいつでも会えるのに!!」

そう言って僕は井吹君を後ろからポカポカと叩いた。

君はまた笑う。
僕の気持ちをわかっているかのように。

僕は彼の肩に手を置き、井吹君の背中と自分の間に腕の壁を作って寄り添う。

…君に、この鼓動が聞こえませんように。


初めて感じる君の背中の大きさ。
意外に逞しいことに気付く。

その背中に額をくっつけて、心の中で呟く。



ありがとう。

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