*恋心(龍沖)

「ちょっと君、邪魔なんだけど…」
「あ、すんませ…て!沖田!!」

お決まりになりつつある君とのやりとり。
些細なことでも噛みついてくる君の反応が面白くて、つい遠くから見つけてはちょっかいを出してしまう。

「なんであんたは毎日俺に突っかかってくるんだよ!俺がなんかしたか!?」
「君が僕の視界に入ってくるのが悪いんでしょ。後輩のくせに、生意気だよ。」
「何無茶なこと言ってんだよ!同じ学校にいりゃ視界にも入るだろ!!」

ほらね。また噛みついてきた。

僕は彼のその反応に満足すると、隣にいた一君を促して先へ進む。

「〜って!沖田!!」

後ろで君が文句を言ってるけど聞こえないふり。
すると、一君が僕にため息をつきながら声をかけてきた。

「総司。あんたは毎日、よく飽きずに井吹に関わるな。」
「ん?だって井吹君の反応、面白いんだもん。」

僕が笑顔で答えると、一君はやや呆れ顔になった。

最初はただ、君の反応が面白かっただけだった。



ある日の放課後。
剣道部の稽古の休憩で、僕は水飲み場へ向かう。

その時、君の藍色のくせっ毛が、体育館の裏に移動するのが見えた。

(井吹君、見っけ♪)

僕はいつものように彼の後を追う。
角を曲がって君に声をかけようとしたとき、

「井吹君!!ずっと、好きだったんです!!私と…付き合ってください!」

(…え…?)

僕は一瞬何が起きてるのかわからなかった。
思わず、建物の陰に身を隠す。

井吹君が…告白されてる…の?

あり得ない話ではない。
井吹君はそこそこ格好いいし、いつも元気で、真っ直ぐで。

彼女がいないことが、そういえば不思議なくらいだった。

別に、告白ぐらい普通なのに…

どうしてこんなに苦しいんだろう…

僕は、自分の胸元を押さえた。
胸が締め付けられる。


「え…あ…その…」

君の戸惑ってる声が聞こえてくる。
どうするんだろう。

「その…ごめん…。俺、好きな奴いるから。気持ちは嬉しいんだけど…」

僕の胸はさらに苦しくなった。
井吹君に好きな人がいるなんて。

「そっか…わかった。その好きな子と、付き合えたらいいね。」
「はは…。なかなか難しいけどな。」

そう言葉を交わすと、女の子はその場から去って行った。

井吹君はその場を動かない。

僕は苦しい気持ちを押さえて、いつものように君に声をかける。

「何してんのさ。こんなとこで…。」

君の肩が大きく震える。

振り返りこっちを見る君は、なぜかとても悲しそうで。
僕は思わず言葉を続けた。

「君でも告白されるんだね。びっくりしちゃったよ。」
「!!…見てたのかよ…」

いつもは噛みついてくる君が、今はやけに大人しい。

「どしたのさ、君らしくもない。いつも元気だけが取り柄ですーって感じなのにさ。」
「…」

君は何も答えない。
僕はだんだん声がきつくなってくる。

「なにさ…、なにさ!なんて顔してるんだよ!好きな子に、気持ちを伝えられないから!?」
「!!な…、聞いてたのかよ…」

君の顔が赤くなっていく。

それが無性に腹が立って、僕はつい、意地悪な口調になってしまう。

「…聞こえたんだよ。まったく、好きな子に気持ちすら伝えれないなんて、とんだ臆病者だね。」
「…しょうがないだろ。どうにもならないこともあるんだよ…」


本当に悲しそうな顔をする君を見ると、また胸が苦しくなる。
君にこんな顔をさせる子は、いったいどんな子だろう。



「なぁ沖…え…!ど、どうしたんだよ!?俺、なんかしたか?」

は?何言ってるのこの子?

意味が分からず固まっていると、井吹君の手が僕の目元をそっと拭う。

「なんで…泣いてんだよ…」

え?

思わず、もう片方の目元に手をやる。
目からは涙が流れていた。

「なん…で…」

自分の流す涙の意味が分からなかった。
止めようと思っても、涙は止まらない。

井吹君は、そんな僕をそっと抱き寄せた。

「!!」

驚いて離れようとする僕を、君はさらに強く抱きしめる。

「い、井吹く「俺…もう諦めるしかないって思ってた…」」

僕より少し背の低い君は、僕の頭をそっと自分の肩に寄せる。

「でも…諦めるなんてできねえよ。」

耳元でそう囁かれ、僕の体はビクッと少し震える。

井吹君は、僕の肩を持ち、体を離すと、僕の目を真っ直ぐに見つめ、言った。

「俺、この学校入ってからずっと、お前が好きだった。」
「!!」

思いがけない言葉に驚き、目を丸くする。

「俺、男だし、年下だし、背もお前より低いし…お前にはそういう風に思ってなんかもらえないかもしれねえけど…。」

僕の涙は止まっていた。
胸の苦しみまでも。

その代り、体の奥がじんわり熱くなってきて、とてもあったかい気持ちになってくる。

「じ、じゃあ、そういうことだから!!」

そう言って走り去ろうとする君の手を思わず掴む。

「沖田…?」
「言い逃げなんて、卑怯だよ。僕の気持ちはどうするのさ。」

さっきの胸の苦しみや、涙の訳にやっと気づく。
君が、気づかせてくれたんだ。

少し、素直になってみようかな…

「」

僕の返事を聞いた君はまた僕を抱きしめる。
今度は僕も、君の背中に手を回す。

夕焼けの空は、暖かく僕らを包んでくれていた。

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