雨(沖斎) *七夕 の続き(過去拍手文)

俺が御陵衛士に来てから四月が経つ。

総司と離れて、もう四月…。
何も言わずに出て行った俺を、総司はどう思っているのだろう…。

副長の命とはいえ、最愛の者と離れるというのはこんなにも苦しいものなのか。

気を抜けば、総司のことばかり考えてしまう。



…逢いたい



今日は七夕だというのにあいにくの雨模様だ。

今夜は織姫と彦星という者たちが一年に一度出会える日であるという。
彼らは果たして無事に会えたのだろうか…。


この雨がひどく悲しさに満ちている気がして、天にいる二人が泣いているように思えた。

今夜は素直に床に就く気分ではない…


俺は傘を持ち、履物を履く。

そのまま、あてもなく外を歩いた。

土砂降りの雨のため、街でも祭りをしている様子もなく、辺りはしんと静まり返っている。

新選組にいたときには毎日のように歩いた道。
今はひどく懐かしい。

総司と二人で通った茶屋
浪士を取り締まった池田屋


そういえば…
ここの道角で、依然巡察中に総司と出会ったのだったな…

お互いに道を曲がろうとして出会い頭にぶつかりかけた。

俺だと分かった瞬間に総司はひどく喜んでくれたな。



そう…じ……総司…総司!!!

いたるところにある総司との思い出。

俺の思いは強くなるばかりだ。
離れていても、忘れられるはずなど…ない。


さらに強くなる雨脚。
さすがにもう帰ろうと角を曲がったとき…

その角に、一人の者が雨に打たれ、うずくまっているのが見えた。

「!?おい、そこの者、どうしたのだ!!?」

俺はその者に駆け寄った。

近付くにつれ、だんだんとその者の姿が見えるようになる。


まさ…か…


俺の心臓がどくん、と音を立てる。

そこには、苦しいほどに恋い焦がれ、逢いたいと願う者の姿があった。

「そう…じ…?」

その名を呼ぶと、体がわずかにピクリと跳ねた。
ゆっくりと顔を上げる。

「は…じめ…くん…?」

その瞳は虚ろで、焦点が合っていない。
久々に触れたその身体はひどく冷たく、カタカタと震えていた。

「総司!!何故このような所に!!??しかも傘も差さず、何をしているのだ!!?」

思わず声を荒げる。

総司の体調はあまり思わしくなかったはずだ。
こんなところで雨に打たれては、さらに負担がかかってしまう。

俺は総司に肩を貸して共に立ち上がる。
総司の体はひどく軽かった。
食事もろくに口にしていなかったのだろう…

胸が潰れそうなほどに痛む。
総司をこんなに苦しめてしまったのは…

俺だ…

そのまま、事情を知る、知り合いの町医者のもとへ総司を連れて行こうとする。

本当は屯所へ連れて行きたかったが、俺は今、本来なら新選組の者とは出会ってはいけない立場だ。

自分の不甲斐無さに唇を噛みしめ、力の入っていない総司を連れて歩く。

すると、フッと総司が笑った。

「総司…?」
「これは…夢…なのかな?」
「…」
「今日は…七夕…だから、夢に…一君が…来てくれたのかな…?」

総司はひとり言のように呟く。
意識が、朦朧としているようだ。

「あぁ、これは…夢だ。」

俺は答える。
総司がこれを夢だと思っているのなら、その方がよい。

総司が熱を帯びた目で俺を見つめる。

「…一君…。逢いた…か…た。逢いたかった…よ…!!」

そう言って、俺に抱き着く。


傘が地面に落ちる。


総司は俺の肩に顔を埋めて、もう離さないとばかりにきつく、きつく抱きしめてくる。

「総司…!!」

俺も、総司を抱きしめる。
もう、この愛しい者と離れたくない。
せめて、この瞬間だけでも…。

お互いに顔を見合わせ、どちらともなく口付ける。
四月という空白の時を埋めるように

深く、深く



知らぬ間に雨が上がっていた。
天の二人も、出会えたのだろうか。
夜空には、天の川が流れていた。



***
目を開けると、見たこともない天井。
ここは…どこだろう?

僕が体を起こすと、ちょうど襖が開いて、人の良さそうなおじさんが近づいてきた。

「おや、目が覚めましたか。」
「えと…ここは?」
「ここは街外れの診療所ですよ。あなたが昨日倒れていたところを見つけたので、連れてきたのです。」

ニコニコ笑いながらおじさんは答える。

そっか…僕、あそこで倒れちゃって…

ふと、とある温もりを思い出す。

「ねぇ、おじさん…」

僕は声をかける。

「なんです?」
「ここに、黒の着流しを着た男の子は来なかった?」
「…さぁ?存じ上げてませんが…」

おじさんは首を傾げる。

「そうですか…」

やっぱり、あれは夢だったのかな。
優しい温もりを思い出す。


おじさんは目を細め、僕に問いかける。

「…その方は…あなたにとって大事な方なのですか?」
「ぇ?」
「いえ、あなたがとても寂しそうにしておられたので。」

おじさんは真っ直ぐに僕を見つめてくる。
まるで僕の真意を問うかのように。

僕は、おじさんの視線を正面から受け止めた。

「僕の…命よりも大切な人です。」

そういうと、おじさんは目を細めて笑った。

「沖田さんには、七夕の奇跡というやつが起こったのかもしれないですね。」

そう言って笑う。その優しい笑い方は一君みたいで…

「七夕の奇跡…て、え??なんで僕の名前を…??」

おじさんは少し目を見開いたが、すぐに笑顔になった。

「…さぁ?どうしてでしょうね。」


******

それからまた四月が経って、一君が新選組へ帰ってきた。
土方さんの命令で、伊藤さんのところに行かされてたんだとか。

それを知ってから、土方さんの句集を今まで以上に大声で読んで回るようになった。

本当はそんなもんじゃ足りなかったけど、一君が土方さんは悪くないって言うから、仕方ないよね。
これぐらいで勘弁してあげる。

「そういえば…」

以前、見た夢の話を一君に話す。

「ちょうど七夕の夜、僕、一君の夢を見たんだ。今までもずっと見てたけど、その日はなんか特別で…。君のあったかさまで感じれたんだよ!!七夕ってすごいよね。」

一君は少し驚いた顔で僕を見つめて、フッと口元を緩ませた。

「偶然だな。俺も、その日は総司が出てきたぞ。」
「本当!!?」

あぁ、と言って君が笑う。

君も同じように僕を感じていてくれたなんて。

七夕の奇跡…
本当にあるのかもね。



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