猫と君(沖斎) ::pop crunch::ユイト様へ

ある晴れた日の縁側で。
こんな気持ちのいい日にも関わらず、僕はとても不機嫌だった。

「ねぇ。一君は僕のなんだからね。…ちょっと、聞いてるの?」

僕は隣に寝転ぶ茶色の主に向かって声をかける。
しかし、その主は僕の言葉なんか聞く様子もなく、大きな欠伸を一つもらした。

「…僕を怒らせない方がいいよ。君、切っちゃうよ?」

それでも主は我関わらずといった様子で頭を掻く。

僕はそいつを思いっきり睨みつけてやった。
その時…

「総司…?何故猫をそんなに睨んでいるのだ?」

一君が僕らの方へ歩いてくる。



そう、この茶色の主は最近屯所に居つくようになった猫。
しかも、僕の一君に一番懐いているんだからたちが悪い。

「…僕はこの子に一君は僕のだからって言い聞かせてるんだけど、この子、全く聞かないんだ。」

そう言って僕はまた猫を睨んでやった。
一君はふわりと笑って、猫とは反対の僕の隣に腰を下ろす。

「猫にそんなこと言ってもわからないだろう。」
「でも、この子絶対わかってて無視してるよ。さっきも…」

僕が一君と話し始めたとき、今までずっとだんまりして動かなかった猫が、いきなり立ち上がって、僕を横切って一君の方へと歩いていく。

そしてそのまま、一君の膝の上に寝転んだ。

「〜!!!!もう!!一君は僕のだって言ってるじゃない!!」

その声を聞いた猫はゆっくりと僕の方へ向き直ると

くぁあああ〜…

今までにない大あくびをした。

…もう怒った…

僕はその子を一君から引き離そうと猫に手をかけた。その途端、

「みゃ〜ん…」

その子はいかにも僕がひどいことをしているかのように一君に訴えかける。

「総司!こやつが嫌がっているではないか。その手を離してやれ。」

そう言って僕の手から猫を奪い取ると、再び自分の膝の上に乗せた。
膝の上に乗った猫は勝ち誇った顔でこっちを見ると、一君の膝に顔を摺り寄せる。
その猫を一君は愛おしそうに撫でる。

僕はひとり取り残された気がした。
宙に浮いた手を握る。

「なんだよ…、一君。僕より、その子が大事だっていうの?」
「え?」
「もういいよ!一君なんかしらない!ずっとその子と一緒に居ればいいじゃない!」
「ちょ…!総司!!」

一君の呼びかけを知らんぷりして、僕はその場を離れる。



しばらく廊下を歩くと、向こうから近藤さんが歩いてくる。

「おぉ、総司。いいところに。」

近藤さんの笑顔に、僕も自然と顔が綻ぶ。

「近藤さん!どうしたんです?僕になにか用ですか?」
「いや、用というほどでもないのだが…」

そう言って、僕の前に包み紙を出す。

「…?これは何です?」

僕が尋ねると、近藤さんはにこやかに答えてくれた。

「ん?これはお前が前に好きだと言っていた店の金平糖だ。島田君から差し入れてもらってな。総司にも分けてやろうと思って、持ってきたんだ。」

僕は包み紙を開ける。
中には色とりどりの金平糖が入っていた。

「本当だ!ありがとうございます!!近藤さん!!」

そう言うと、近藤さんは満足そうに、仕事があるから、と去って行った。

僕はしばらく、その金平糖を見つめた。

…この金平糖、前、一君も食べてみたいって言ってたなぁ。

以前、一君と交わした会話を思い出す。

(でね!そこの金平糖がすんごくおいしかったんだ!ふんわり甘くって、一君みたいなの!)
(そ!総司//俺は甘くなど…)
(一君は甘いよー。金平糖みたい。)
(まったく…//けれど、総司がそんなにうまいと言うのなら、俺も一度食べてみたいものだな。)
(うん!今度は一緒に食べようね!)



…一君に会いたいなぁ
さっきひどいこと言っちゃったけど、許してくれるかな?

僕は包み紙を握りしめて、元来た道を駈けていった。




猫の毛を撫でながら、縁側に座っている一君が見える。
近づいていくと、一君が何やら猫に話しかけているのが聞こえてきた。

「まったく、お前もあんな大あくびするから、総司に嫌がられるんだぞ。」
「みゃー」
「お前のせいで総司に嫌われてしまったかもな。」
「みゃー」
「ふふ、冗談だ。総司も少し拗ねているだけだろう。」

一君…猫と喋ってるの?

「それにしても、総司もお前にまでやきもちを焼くとは…。俺は…幸せだな。」

一君…

君はこんな醜い嫉妬でも、嬉しいと思ってくれるの?


さらに近付こうとすると、一君の声が聞こえる。

「しかし…。お前はやはり、総司に似ているな。」

え?

僕は思わず立ち止まる。

「お前を突き放せないのは、総司と重なってしまうからなんだろうな。」

そう言って君は少し笑う。

「けれど、俺が好きなのは人間の方の総司なんだ。だから、もう総司の前では相手ができぬかもしれぬ。」

「みゃーん」

猫が悲しげに鳴く。

「お前がもう少し総司と仲よくしてくれぬのがいけないのだろう。」
「みゃー」
「努力してくれるのか?」

猫は一君の手をぺろぺろと舐める。

「ふふ。くすぐったいぞ。そうか、頑張ってくれるのか。」
「みゃー」
「俺の好きな総司を、お前も好きになってくれたら嬉しいものだな。」

もう、じっとして居られなかった。
僕はそっと後ろから一君を抱きしめる。

「!!総司!?」
「…一君…、さっきはごめん…」

自分でも驚くぐらい情けない声が出た。
思わず、一君の肩に顔を埋める。

一君はふっと笑うと、さっき猫を撫でたように、僕の頭を優しく撫でてくれる。

「猫に嫉妬するとは、何事だ。」
「…ごめん」
「お前がいなくて、寂しかったんだぞ。」
「…ごめん」
「…総司。顔をあげてくれ。」

一君はそういうと、僕の方に向き直る。

彼の真っ直ぐな視線が僕を捉える。

「一く…「俺が好きなのは…お前だけだ。」」

そのまま、吸い込まれるように、僕に口付けてくれた。

触れるだけの、優しい口付け。

それでも、屯所の、しかも縁側で、君から口付けてくれるなんて、思わなかった。

驚いて君を見ると、顔を真っ赤にしてこっちを見つめている。

僕はたまらなく嬉しくって、君を抱きしめる。

「もう!!一君、大好き!!」
「…知っている。」

ゆっくりと君も僕の背中に手を回す。

「みゃー」

ん?

声のした方を見ると、猫がこちらを恨めしそうに見つめている。

あ、すっかり忘れてた。

「君はさっきまで一君に甘えてたでしょ?次は僕の番。」

そう言うと、猫は気を利かせてくれたのか、ゆっくりとした足取りでその場を離れていく。

「あやつの方が、少し大人のようだな。」

一君はふんわり笑う。

「僕は子供でもいいよ。君と一緒に居れるなら。」


君を想う気持ちは誰にも負けない。
誰にも君を取られたくないんだ。
僕のこんな醜い嫉妬も嬉しいと言ってくれる。
そんな君が大好きだ。

「あ、一君。さっき近藤さんから例のお店の金平糖をもらったんだ。一緒に食べよう!!」

そう言って包み紙を広げる。

その中から君の瞳の色に似た蒼色の金平糖をひとつ、口に入れた。

そのまま、一君に口付ける。

甘い、甘い口付け。

僕たちの熱で、金平糖が溶けていく。

優しい甘さが体中に広がる。

名残惜しいけど、唇を離した。

一君を見つめると、さっきよりさらに真っ赤になっていた。

「…どう?」
「甘い…な。」

僕たちは顔を見合わせて笑った。


その様子を見ていた猫が、少し満足そうに溜息をついて出て行ったことは、誰も知らないおはなし。


=======
猫はふたりのキューピット(*^Д^*)笑
ついつい、猫にまで嫉妬してしまうぐらい、一君を愛している総司。
ふたりの絆はさらに深まったことでしょう(>ω<)
猫、お役御免(笑)

ユイト様、10万打、おめでとうございます!
こんな駄文ですが、もしよかったら貰ってくださいませ。
ユイト様の大好きという猫を生かし切れたかは分かりませんが…(*_*)

ユイト様のみ、お持ち帰り可です!!

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