バチカル闘技場(2/8)

斬撃が唸り、譜術がその咆哮を上げる……その度に、弱きものが去り、強きものが生き残る、栄光と絶望の綱渡り。それが、バチカル闘技場で開催される、闘技大会。

闘技場を囲う観客席は本日超満員。まだ試合が始まっていないのにも関わらず、場内は既に異様な熱気に包まれている。”某噂”を聞き付け集まった観客達が、今大会が開始されるのを、今か今かと心待ちにしていた。戦争が回避され、安寧が保たれた今。人々は新たな刺激を求めていた。興奮と熱気が冷めやらぬ、血沸き肉躍る、熱い戦いを。

そして。ついに、その時はきた。



<<お待たせしました!只今より闘技大会を開催します!>>



拡声器を通したアナウンスの声が響くと、興奮と人々の熱気に満ちた空間に、歓声が沸き起こる。参加者達が場内に登場し、場内中央に集められた所で、ルール説明が開始された。



<<早速今大会のルールを説明しましょう!ルールは簡単!まずは参加者同士全員で戦い合い、予選を勝ち抜いて頂きます!敵味方、入り乱れての乱戦試合です。そして、予選を勝ち抜き、本選をも見事勝ち抜いた方には、素晴らしい優勝賞品が用意されております>>

<<さらに!>>

<<今大会を制覇した方には素晴らしい賞品とともに、新チャンピオンの座が譲られる事にもなるでしょう!>>



新チャンピオンだって?まさか…あの噂は本当に?マジで…!?ざわざわ、と会場中がざわめき立つ中。係りの者達に促され、サク達四人も参加者が集まる闘技場の場内へと足を踏み入れた。



<<御集まりの皆々様方!訊いて驚け括目せよ!本日の飛び入りスペシャルゲストは、な、ななななーんとこの御方!この闘技場で最強の名を冠し、無敗伝説を歴史に刻み続ける我等が英雄、闘技場の覇者ユリアが!新たな仲間達と共に、この闘技場に帰って来たあああああ!!!>>



アナウンスの紹介に合わせてフードを脱ぎ捨てて見せると、割れんばかりの大歓声が、闘技場に轟いた。狂気の沙汰とも思える程に、有り得ない盛り上がりだ。これこれ、この熱狂的な盛り上がりと独特の空気に、いつもゾクゾクするんだ。人々の活気に溢れ、熱気と歓声が渦巻き叫ぶ。割れんばかりの大声援と野次の波、闘技場コロシアムは今や真冬のシルバーナ地方の荒波のようだ〜!



「相変わらず、凄まじい人気だな」

「市民を扇動させてしまう程のモノだしね」



件の偽姫事件の際のバチカル市民からの人気振りを思い出してか、アッシュとクロノが地味に引いている。あの時の比じゃないしね。そして初見なシンクは驚きのあまり固まってしまっている模様。きっと、今の彼の仮面の下の表情は引き攣っているに違いない。



「アンタ、どんだけ闘技場に通い詰めてたのさ…」

『若気の至りってやつデス』

≪今回は挑戦者が多い為、いつもとは一味違った特別ルールでの開催となりますので、予めご了承ください≫



当初の予定では今回もいつもの様にトーナメント形式で展開していく予定だったそうだが、参加者が予定以上に多くなり過ぎたのと、私達(ビッグゲストチーム)の登場により、こういうバトルロワイヤル形式で対処する事にしたらしい。何でも、私達の姿を街中で見かけた市民達から、今日の試合にはチャンピオンが出るのかと問い合わせが殺到したらしく。その様な予定は無いとどんなに否定しても、隠しても無駄だと聞く耳を持たれず。チャンピオンの参戦を期待する観客と参加者達はどんどん増え続け、しかも下手に拒めば、暴動すら起きかねない人数と雰囲気で。この騒ぎに対し、どう対処したものかと困り果てていた所、噂通り本当に守護役ユリアが現れ、闘技場側から助けてくれと泣き着かれた、というのが事の次第である。アタイってば本当に救世主ね!

今回の試合のルールを要約すると、乱戦の中、最期まで勝ち残ったチーム(または個人)が優勝という運びです。これには勿論、闘技場の猛者達も参加します。彼等の場合、挑戦者達の壁になるより、チャンピオンと再戦したい…っていう意識の方が強そうに見えるのは、きっと気のせいではないだろう。一般参加者達の方も、伝説のチャンピオンとバトル出来ると、俄然燃え始めた様だし。いやー、人気者はツライね。

ちなみに、アリエッタとフローリアンはセコンド席から観戦している。団体戦の参加者は四人までだからね。フローリアンも出たがってはいたんだけど、流石に本格的な戦闘は危ないからと説得してきた。ちょっと拗ねていたけどね。

そして、チームチャンピオン(勝手に命名)参加メンバーの方ですが……各々が抱える諸々の事情から、変装して闘技大会に挑む事になった。混乱を避ける為にと今回ばかりはシンクも仮面装着。仮面を着けた事により、むしろ六神将烈風のシンクだと一部では話題にされている模様。そしてアッシュですが、流石に髪色が特徴的過ぎるのでアビスシルバーの称号をおススメしました。何この珍妙なパーテイー軍団。そしてクロノは髪色を変えただけという、シンプルな変装…っていうかむしろ普段通りだったりするのですが。クロノ曰く、応援席から見ても遠目だし、対戦者に関してもひ弱な導師イオンのイメージから掛け離れて見えるだろうからバレやしないさ。との事で。せっかくシンクが仮面を装着してるのにコイツは……っと、やべえ何かクロノに笑顔で睨まれた。表現が矛盾してるけど間違っていないという衝撃の事実。本当にもう嫌だこの子。

取り敢えず、我々側の参加メンバーはこんな感じです。キムラスカ王家の血筋の特徴を持つ公爵家子息嫡男アッシュ、(元)ローレライ教団導師イオン被験者ことクロノ、神託の盾騎士団第五師団長・六神将が一人烈風のシンク、闘技場の覇者ユリアことローレライ教団が第二導師サク。毎度の事ながら、ルーク御一行様にも負けない位、豪華な精鋭メンバーです本当に。



「乱戦だとは言ってるけど…この空気、どう考えても僕等VSその他参加者全員っていう状況にしか見えないんだけど」

『これは……流れが変わったな!』

「悪い方向へな」



シンクとアッシュが頭を抱えている。勿論、こうなるだろうと分かっていた上での事ですこの状況。だから僕等にも出場しろって強要してきたのか…とシンクもボヤいている。すべては"ユリア様"の思し召しさ。



「見た感じ雑魚ばかりの様だけど、別にユリア無双でいけるんじゃないの?」

『それじゃあいつもと同じでつまんないじゃん』

「「「(いつもなのかよ)」」」



何だか三人の心の声がハモった気がするけど、スルーしておく。クロノの意見通り、参加者全員VS.私個人でも、チートを駆使乱用すれば秒殺だって可能だろう。心身共にコンディションもばっちりだし。しかし、毎回ユリア無双ばかりで観客に飽きられ、人気が落ちて闘技場にも完全に出禁になってしまっては、悲し過ぎるからね。

闘技場の覇者ユリアは、最早殿堂入りしている様なもので、出られる試合は最後の個人決勝戦にチャンピオンとして出られるのみ。というのが現状だ。事実、闘技場のチャンピオンでもあるのだから、当然の待遇ではある。オマケに、普通の団体戦上級に私単騎で出る場合にすらも、ゲームの縛りプレイ並みに色々と制限が掛けられるレベルだ。詰まる所、出禁一歩手前状態である。一単に、闘技場の覇者ユリアに人気があるが為に、かろうじて出禁を免れていると言えるだろう。私が闘技場に通わなくなった小さな理由の一つでもある。主な理由は、髭が本格的に動く時期が来たのと本職が多忙だったのとレベルの違いと単純に飽きた事により、総じて面倒になったからではあるが。

とまあ、色々ある訳だけれども……何であれ、久しぶりの闘技場だ。それに、一度位は皆と一緒に来て団体戦にも出てみたいと思ってたから、その念願が晴れて叶ってやっふううううう!とテンション高めに一人で舞い上がっております。あとは、



『…ねえアッシュ。さっきの話の続きなんだけど、せっかく団体戦でエントリーしてる訳だし、久し振りに勝負しようか』

「あ?今度はまた何を…」

『私達の中で敵をより多く倒した人の勝ち。負けたら勝った人の言う事を何でも一つ聞く事。美味しい物を何か驕るとか、一週間食事当番を担当するとか』

「へえ。面白そうだから、その話乗った」

『流石クロノ!話が分かる』

「おい!勝手に決めるな!」

『あれ?アッシュは負けるのが恐いの?』

「んだと…?」

『シンクも良いよね?』

「どうぞ御自由に」



こういう時、クロノは意外とノリが良い。妙に馬が合うんだよね。流石、我が悪友。アッシュも短気で釣りやすいし。シンクに関しては早々に諦めている模様。こういう時の私には、何か言うだけ無駄だという事をよく分かってるよね。…よし、これで言質取ったからね!



「サクのテンションも高いけど、何か、いつにも増して煽り耐性が低くない?今日のアッシュ」

「ここがバチカル、っていうのが一つの要因なんじゃない?アッシュにも色々と想う所があるんだよ」

「嗚呼、成程ね…」



上機嫌なサクと、今にもサクに斬り掛かりそうな位殺気立っているアッシュを呆れ混じりに見詰め、シンクはため息をつく。色々と複雑な事情から思う所があって、それがサクの挑発で見事に頭から吹き飛ばされているのだから、コイツも世話無いわ。自分と似たような事を考えているのであろう、クロノの方もニヒルな笑みを浮かべている。此方は此方で、現状を楽しんでいる様だ。…本当、良い性格してるよ。この被験者様は。

そうこうしている間に、アナウンスの長ったらしい話や、他の有名参加選手達の紹介もいつの間にか終わっていたらしい。有象無象の連中が武器を構え、殺気立ってきたのを感じた所で、シンクも軽く身構え、サク達も各々の武器を手に取った。



<<それでは早速、大会予選まいりましょう!レディ〜〜〜ファイッツ!!!>>



こうして、彼等の戦いの火蓋は切って落とされた。



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