栄光の大地(3/12)

閑話休題。

ルーク達も部屋に集まった所で、最近恒例になりつつある近況報告と、今後の行動計画について話し合いを行った。とは言え、前者に関しては、先日ルーク達から報告を受けたばかりなので、とりあえずベルケンドで得た情報を主に。此方からは、今回の調査結果を踏まえたフェレス島に関する情報と、栄光の大地に関する情報をシンク達が知っている範囲内での情報交換となった。



「…結局、セルパーティクルの防護障壁のせいで、近付く事すら無理だったよ。何とか対策を講じる必要があるな…」

『今後の課題…って言うか、新たな問題が増えた訳か…』



厄介だねー、なんて。ルーク達と同じ様に渋い顔して、サクもしれっと宣ってみる。



「それで、アッシュ達の方は、鍵は見付かったのか?」

「ハッ、誰かさんのお陰で、捜しに行く前に立会人を頼まれたせいでまだ捜しに行けてねぇよ」

『それは由々しき事態だ。世界の危機より御偉いさんの超個人的な頼み事が優先されるとか、世も末、世紀末だね』

「本当になぁ……」



額に青筋を浮かべ、怒りに肩をフルフルと震わせながら剣の柄に手を掛けているアッシュを、クロノが宥める。落ち着きなよ。一度も勝てた試しが無いんだから。そう言ってニヒルに笑うクロノ氏は、宥めるどころかむしろ容赦無くとどめを刺しに行っていた。そして押し黙るアッシュ。う、うーん…アッシュ、何かごめん。



「あと他に行ってないのは、第一セフィロトじゃない?」

「アブソーブゲートのセフィロトか……可能性は低そうだけどね。これで見つからなかった場合、振り出しに戻るし」



クロノの返答に、思わず渋い顔で眉間に皺を寄せるシンク。アブソーブゲートは、ルーク達が外郭大地降下作業を行ったセフィロトであり、彼等がヴァンと最後に戦った場所だ。また、ルークが宝珠を受け取り損ねた(と思われている)場所でもあり、その辺に転がっている可能性は無きにしも非ず。…が、仮に、セフィロトを通じてローレライの宝珠が投げ出された可能性を考慮した時……アブソーブゲートは惑星(上空)を循環した音素が再び地核に帰結する場所であり、セルパーティクルの流れ方からしても、アブソーブゲートのセフィロトに宝珠が投げ出された可能性は、かなり低い事が考えられる。

まぁぶっちゃけ、そんな可能性が低い場所に送り付けられた宝珠を、ルークはしっかり受け取っている訳だがな!



「いっそもう一度地殻に飛び込んでみれば?」

『ヴァンと鉢合わせるのは御免だよ』



クロノの冗談でもない冗談に、サクも首を横に振る。

確かに、あえて地殻に飛び込んで、ヴァンがローレライを制御出来ていない今の内に、ヴァンを叩くって博打も、選択肢にはあるっちゃある。後々エルドラントでローレライの力を解放されたヴァンと戦うより、此方の方が潰し易い可能性は高い気もするし。…まぁ、潰してしまうのが前提なら、最初からこんな回りくどいやり方はそもそもしてないけどね。それに、脱出する時にローレライの手助け無しはキツイんだよ。不可能ではないにしろ。



「…話を戻すぞ。取り敢えず、俺達の方は引き続き宝珠を捜す。これ以上コイツのお遊びに付き合っていられるかよ。障気も復活しちまった今、一刻の猶予も無えしな」

『そうだね。じゃあ、私もアッシュに協…』

「サクはダアトに帰って暫く安静」

『えー…』

「えーじゃない」



シンクにジトリと睨まれ、彼の言わんとしている事を察し、サクはむくれながらも大人しく閉口した。鮮血と僕等に任せなよ、とはクロノの声。今ダアトに帰ったら、イオンと一緒に教団内に缶詰めにされてしまうではないか…!と言う私の本音は、シンクに完全に見透かされている模様。ほら、見てよあのシンクのジト目。何処か名探偵うさみちゃんを彷彿とさせないかいクマ吉君?



「で、死霊使い達の方は、話はまとまっているの?」

「ええ。我々は今回の調査結果をグランコクマへ陛下へ報告に向かいます。そこで、出来れば貴方方には、ベルケンドへ調査結果の報告をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「…はあ?『あー、フェレス島とエルドラントの件ですか。良いよねイオン?』

「はい。僕にも是非お手伝いをさせて下さい」



ルーク達はグランコクマへ向かうなら、ベルケンドとは進路が真逆だ。アッシュ達も第一セフィロトに向かう途中でベルケンドに寄っていては、かなり遠回りになるし。ここは此方がダアトへ帰る途中で、ベルケンドを経由していくのが一番効率的だろう。そう考えて、イオンにも同意を求めてみた所、快く承諾して貰えたし。これで決まりだねー、なんて笑顔で話し合うサクとイオンの後ろで、抗議をし損ねて頭を抱えるシンクと、彼に苦笑を向けるアニスがいた。



「死霊使い達に良いように使われてる上に、自分達が導師っていう立場にある事を理解してないだろコイツラは……!」

「シンクも大変だね…」

「何他人事みたいな顔してんの?アンタも僕と同意見なら、イオンの方を止めなよ」



シンクの言葉に、アニスは僅かに瞠目した。自分と同意見なら、アタシにイオン様を止めろと、彼は言った。それは、シンクと同じ立場である導師守護役に…アタシに対しての言葉で。サク様専属の導師守護役である彼に、アタシはイオン様付きの導師守護役として認められているという事で。まさか、シンクからもそんな風に認めて貰えているとは夢にも思わなかった。思わず目頭が熱くなったのを何とか堪えて、アニスは平静を装って笑った。



「それはそうなんだけど……でも、あんな風に嬉しそうに張り切ってるイオン様の顔を見ちゃうとね…」

「……イオンも甘ちゃんだけど、その守護役も守護役だね」

「えー、シンクに言われたくはないんですけどー」



それに、シンクもアタシと同じ気持ちなんでしょ?なんて言って笑うアニスに、シンクは嫌そうに半眼する。睨みこそすれど、否定はしないシンクにアニスはまた笑った。

そんな二人の様子を密かに見守っていたサクとイオンの方もまた、互いに顔を見合わせてそっと笑った。



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