栄光の大地(5/12) 「あいつら無駄話長過ぎ。サクも疲れ切ってる癖に、何で黙ってアイツ等の気が済むまで話に付き合うのさ」 『いやぁ。つい?』 あの後、およそ一時間程ルーク達と雑談が続き、すっかり夜になってしまった。いつまで話し込む気だと、見兼ねたシンクが強制的に話を切り上げ、本日はお開きとなった。その後、シンクに強制的にアリエッタが眠る隣のベッドへと寝かせられましたという。私の体調を察し、気遣ってくれたんだと思う。 身体の浅い傷は、一応治癒術で治した。でも、それ以外の右足首や最後に負った分のダメージは残ってて、実は今なお全身が痛い。どうやらその辺の状態を、シンクに見抜かれてしまっているみたいです。全身打撲とかは痛みが長引くから嫌だなぁ。自業自得だね、とはシンクの声。全くその通りだと私も思う。 『シンクー…マカロンが食べたい』 「急に何?」 『作って?』 「…戦闘中もそんな事考えてるから、ルーク達にやられるんだよ』 『あう…否定出来ない…』 …今度は何を言い出すのかと思えば。がっくりと項垂れるサクに、シンクはため息を溢す。…でも、サクがこんな風に僕に甘えてくるのは、珍しい事だったりする。というか、久し振り…かもしれない。思えば、彼女が大人しく教団にいた頃は、こうしてよく子ども染みた駄々を捏ねてきたな…なんて事を思い出す。 ……そうか。あの頃の僕は、サクに甘えられていたのか。 「……分かった。後で厨房を借りれたら、作って来るから」 『!!』 驚いた顔をした後、彼女は嬉しそうに笑った。言ってみるものだね。なんて、思ってるのだろう。普段からこんな風に大人しければ、可愛げがあるのに…。とんだジャジャ馬導師様である。少しはイオンを見習ったら? 『有難う、シンク!』 「そのかわり、サクはここで大人しく寝てる事。いいね?」 『はーい』 シンクに念を押されながらも、サクはどうしても緩んでしまう頬を布団を引き寄せて隠した。どうしょう。なんだかシンクがすごく優しい気がする。面倒くさそうな顔をしながらも、仕方がないなぁって感じで返事が返ってくるなんて。 マカロンの作り方、知ってるのかな?それともレシピを調べて作るのかな?楽しみにしながら、布団に潜り込む。なんだか、軽い風邪をひいた時に「何か食べたい物はある?」って親に聞かれてアイスクリームを強請る子供の様な、特別な気分だ。 「ほら。出来たらちゃんと起こすから、今は寝ておきなよ」 『うー…今は眠くないのに…』 疲れているのだから、目を閉じでもすれば、すぐに睡魔はやってくるだろう。けど、何となく今はまだ眠りたくなくて。駄々を捏ねる私をシンクがあしらい、部屋の電気を消して早々に部屋から立ち去ろうとする彼の背中を見ていたら、辺りが薄暗くなった心細さも相まち、何となく人恋しくなってしまって…… 『…あのね、シンク』 「……何?」 思わず、咄嗟に引き止めてしまった。特に用があった訳じゃない。けど、シンクの背中を見てたら…シンクが助けてくれた時の事を思い出した。その場で足を止め、律儀に振り返ってくれたシンクに対して、私もベッドから起き上がろうとしたら、それはシンクに制されてしまった。そう言えば、寝ている様に言われたばかりだった。怒られるかな…なんて、少しだけ心配していたら、代わりにシンクの方がベッドサイドに座ってきた。静かに私を見下ろすシンクの瞳に、怒った様子はみられない。むしろ、今から話を聞こうとしてくれている雰囲気だ。 『今日は助けてくれて、ありがとう』 「…うん」 先程までの賑やかさはなく、静まり返った室内。聞こえてくるのは、シンクの声と、アリエッタの小さな息遣いだけ。月明かりに照らされたシンクの翡翠の双眸に話の続きを促されると、私の口からするりと言葉が出てきた。 『私、今回一人でルーク達の相手をしてて、改めて思い知ったんだ。自分がどれだけ周りに支えられて、助けられていたか』 一人で一度に六人の実力者達を相手取るにあたり、後半戦からは注意力が散漫になっていたなあと、後から思う。時間が立つにつれて足許を掬われる場面も何度かあったし、やはり集中力が落ちてきてた様だ。所詮、私一人の力ではその程度という事で。今まではシンクやフレイル、アッシュやアリエッタにクロノ、カンタビレ教官にフローリアン達……仲間達がいたから、ここまで来れた事を改めて実感した。仲間達に支えられてたんだなぁ…って。いつも無茶振りする傲慢な第二導師の小娘なんかにによく付いてきてくれたよね本当に。 その事をシンクに伝えたら、彼の眉間には皺が寄っていた。アッシュの専売特許ことトレードマークが…。そんな事を考えてる私は、やはりシンクの言った通り、あまり反省していないのかもしれない。 『シンクにはいつも心配を掛けてるから申し訳ないんだけど……もう少しだけ、私の我が儘に付き合ってくれる?』 「…………何でもう少しだけなの?」 『え……ああ、言葉が悪かったかな。もう少しだけじゃなくて、今の情勢が落ち着くまで……かな。そうしたら、私も無茶はしないつもりだからさ』 「それって、また今日みたいな無茶を近々するって事?」 『容認して頂けると嬉しいです』 シンクが怪訝に眉を顰めた時は、しまった失言した…って内心焦ったけど、何とか納得して貰えたようだ。とはいえ、容認に関しては……あまりしては貰え無さそうな感じだけど。 少なくとも、ルーク達がヴァンを倒して、ローレライを解放するまでは、私も出来得る限りの事をやるつもりだ。その都度、皆には…シンクには、心配や迷惑を掛けてしまうかもしれないけど、私はこの意思を曲げる気はない。それから先の事は……。…今はまだ、ちょっと…考えたくない、かな……って、痛っ!?何か今おデコに衝撃がきたよ!?ジンジン痛む額を両手で押さえると、頭上から不機嫌そうな…呆れ混じりのため息が落ちてきた。 『し、シンクさん…デコピンは痛いです……』 「…容認も何も、結局は自分で勝手に突っ走って行く人が何言ってんの?っていうか、何を今更改まってる訳?サクの我が儘なんて、今に始まった事じゃないだろ」 『う、うん。それはそうなんだけどね…』 「今までどれだけ僕らが振り回されて来たと思ってる訳?それとも、全くの自覚が今までは無かったの?」 『う……ち、違うよ。一人で戦って、改めて皆の有難味に気付いたの』 「皆の…ね」 『?シンク…?』 …本当に、アンタは人を振り回すのに長けてるよ…。片手で顔を覆い、シンクは前髪ごとくしゃりと自身の顔を押さえた。こういう時、仮面があれば楽に隠せていたのにと、思ってしまう。あの仮面は僕という存在を否定させる代物でしかないのに、サクに今の表情を見られたくないっていう理由だけで、そんな事を考えてしまうなんて……馬鹿げてる。盛大なため息をつきながら、シンクは不思議そうに首を傾げているサクの間抜け面を見詰める。サクもサクだ。人の気も知らないで、僕にそんな事を言うとかさ。サクの額に拳を寄せると、シンクは無言で彼女に再びデコピンをくらわせた。所謂、八つ当たりである。 『い、痛…!?何で二回も!?』 「…バーカ」 涙目になって額を押さえるサクに、シンクはくすりと笑う。本当に、どうしようもないね。 (サクも、僕自身も) *前 | 戻 | 次#
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