覚悟の決闘(4/19)

崩れ掛けた柱にユリアが手をつくと、壁から光が立ち昇り、一部が音素乖離を起こして消えていった。その光景は儚くも美しく、綺麗な現象だと感じると同時に……レプリカの自分も、死ぬ時はあんな風に消えていくのだろうか…と、思わず考えてしまって。とても綺麗な光景なのに、内心ゾッとした。急に、何だかとても恐くなったんだ。第七音素の光が空に溶けていく様を見届けた後、ユリアは俺達へと視線を向けた。



『御察しの通り、この街の建造物の再生成が第七音素の消費反応の一つだった様です』



大広間はこの先です。それだけ言ってユリアは踵を返し、俺達に背を向けて歩いていく。ルーク達がユリアの後を追うと、大広間は本当にすぐそこだった。

街の大広間の中心には、一匹のライガとアリエッタがいた。縫いぐるみを抱き締めたアリエッタは、アニス達の姿を認めると、縫いぐるみを抱く腕にぎゅうっと力を込めた。



「ここはアリエッタの大切な場所!本当は、アニスなんかが来ていい場所じゃないんだから!」

「フェレス島が大切な場所だって?どういうことなんだ」

「ここは……アリエッタが生まれた街だから」



ルークの疑問に、アリエッタがポツリポツリと話し始める。



「アリエッタの家族は、みんな洪水で死んじゃって、アリエッタのことはライガママ達が助けてくれた。 ずっと寂しかったけど、ある日ヴァン総長が来てアリエッタを仲間にしてくれたの。沈みかけてたフェレス島をこうやって浮き上がらせて、アリエッタのための船にしてくれた。ヴァン総長も六神将の皆も、ここを基地ベースにするって何度も遊びに来てくれた」

「兄さん達はここを本拠地にしていたのね」

「フォミクリー施設があるのにも納得ですわね」

「ヴァン総長が、レプリカの機械で、アリエッタの街を復活させてくれるって約束してくれたもん」

「それはまやかしだわ。レプリカは本当の家族でも、家族の代わりでもないのよ」

「……その言葉、ティアはルークにも言うの?」

「…っ!?それは…」

「いいんだ、ティア。…間違ってない」



アリエッタの静かな問い掛けに言葉を詰まらせるティアに、ルークは首を振る。そう、ティアの言い分は、何も間違っていない。…実際に俺は、アッシュの偽者なんだ。その事実は、変わらない。…仲間内にだけに聞こえる様な声音で、そう苦し気に呟いたルークの言葉に、ティアは何も返せず、悲し気な表情で黙り込んでしまった。



「ヴァン総長のやり方が間違ってる事は、アリエッタも分かってる。だから、この装置も止めさせて貰った。本当は、復活させた綺麗な街をイオン様に見せてあげたかったけど……その為にこれ以上世界が壊れちゃうのはダメだから、もういいの」



そう言って、アリエッタはぎゅう…と、縫いぐるみを抱き締めた。何かを堪える様に、顔を埋めている。アリエッタは、どんな気持ちでこの場所を決闘の地に選んだのだろうか。アニスと、故郷のレプリカと決別する覚悟を持って、この決闘に臨むのだろうか。本当は、故郷の再建を止めたくないのかもしれない。それでも、そんな迷いを振り切る様にして、彼女は気丈にも顔を上げた。



「アリエッタはイオン様やヴァン総長、サク様の為に戦ってた。今もそう。そして…アニスはイオン様を裏切った!アリエッタはアニスが許せない!」

『…導師守護役は、導師を護る為の存在。イオン様はタトリン奏長をお許しになられた様ですが、私達は貴女を信用出来ません』

「アニスはまたイオン様を殺そうとするかもしれない。そんなのは嫌!だから、アニスに本当にイオン様の事を守る覚悟があるのか、守れる強さがあるのか……試させて貰う、です!」



ライガが吼え、アリエッタを背に乗せた。他に魔物が出てくる気配はない。このライガ一匹と、ユリアだけの様だ。



「やるなら、さっさと戦おうよ!」

「…で?決闘には決まりが必要だが、どうするんだ」



アッシュが確認すると、アリエッタが答えた。



「アリエッタはお友達のこの子と、ユリアと一緒に戦う。ルーク達も、アニスの肩を持つなら全員で戦え」

「アリエッタ。貴女は私達を助けてくれた事もありましたわ。話し合えませんの?」



ナタリアの悲し気な声に、アリエッタは首を振る。



「アリエッタは、アニスを信じられない。だから、アニスと決闘する!戦う意思が無いなら、ナタリア達がアニスなんかの為に命を懸けて、無理に戦う必要は無い…です」

「そいつは聞き捨てならないね。アニスは俺達の大切な仲間だ!命懸けて、背中を預けて、ここまで一緒に戦ってきたんだ」

「お前達がアニスを責めるなら、俺達がアニスの味方になる」

『…全員参戦、という事ですね』



ガイは剣を抜き、ルークも拳を握り締めたのを見て、今まで静観していたユリアもアリエッタの隣に並び、前に出てきた。



『タトリン奏長のイオン様への忠誠心が取るに足らない物だと此方が判断した場合は、決闘のルールに則り、容赦はしません。勿論、此方も覚悟の上です。…相応の覚悟をして下さい』



ユリアはBCロッドをコンタミネーション現象で取り出すと、クルリと回して握り直し、アニスへ試す様な視線を投げ掛けた。



『…逃げるなら今の内ですよ?』

「アタシは逃げません。アタシを許してくれたイオン様の為にも。一緒に来てくれた仲間の為にも。そして、イオン様の傍にいる為に、アタシ自身の為にも!!」



受けて立つという言葉通り、アニスはトクナガを巨大化させた。トクナガの背に乗ったアニスを見据え、ユリアは僅かに口角を上げた。



『アニス・タトリン奏長。貴女の覚悟、見せて貰いましょう』

「……アニス、覚悟!」



ライガの咆哮が響き渡り、決闘の火蓋が切って落とされた。



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