覚悟の決闘(3/19)

ベルケンドを出発し、第七音素の大量消費地が移動しているという地点を目指し、アルビオールは海上を飛んでいた。報告にあった海域に差し掛かると、アッシュが道具袋から小さな音機関を取り出した。



「その譜業は?」

「アリエッタから借りた物だ。何でも、島の位置を特定する受信機…らしい」

「…島の方には発信機が取り付けられているという事ですか。…いかにもあの洟垂れが作りそうな物です」



ジェイドがゲンナリした様子で話す。ガイがいじりたそうにしているが、これを下手に解体されてしまうと目的地の特定が困難になる為、当然却下されていた。

そうして音機関の示す進路を進んで行くと、やがて絶海に浮かぶ孤島が見えてきた。



「…見えて来たな。あの島がそうだ」

「あれ……!本当に島が動いてる!」



アッシュが窓の外へ視線をやり、一同も視線を向けた。僅かな航跡を発見したルークが、思わず声を上げた。浮島など物理的に有り得ないと主張していたジェイドもその存在を確認し、赤い双眸を細めながら、眼鏡のブリッジを押し上げた。



「あれは…本当にフェレス島の様ですね」

「ああ、間違いない!ホドの対岸にあったあの島だ!」



ガイとジェイド曰く、フェレス島とはホド消滅の影響で津波に潰されたホド諸島の島だったらしい。ホドがあった頃は交流が盛んだったんだとか。津波で、街がこんなにもボロボロになっちまうのか…と、ルークは眉根を寄せた。

アルビオールでホド島に降り立った所で、アニスが一同に声を掛けた。



「皆はこの島内の調査に行って」

「アニス!まさか一人でアリエッタ達の所へ行くつもり?」

「うん」



ティアの言葉に、アニスは大きく頷いた。



「これは私の問題だから」

「違う!」

「…!」



アニスの言葉を、ルークは即座に否定した。



「アニスもイオンも、俺達の仲間だ。仲間の事なら、俺達の問題だ」

「……私が?ずっと皆を騙してたのに?」

「それは仕方がなかったのでしょう?」



ナタリアの声に、アニスが振り返る。アニスは、今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。



「騙していた、と言うよりも、脅迫されていた、と仰いなさい。私達はアニスが好き好んでモースや彼の部下達に従っていたのではない事をよく分かっていましてよ?……仲間でしょう?」

「ナタリア…」



く、とアニスの喉が動く。ガイが人懐っこい笑みを浮かべて前に出、アニスの肩にポンと手を置いた。



「アリエッタにはユリアの他に、魔物の友達もついてる筈だ。だったら、アニスに俺達が……友達がついて行っちゃいけないって話はない。だろ?」

「ガイ…」

「イオン様に無茶をさせた責任は、私にもあるわ。決闘なら、私も行くべきだわ」

「ティア…」



アニスに俺達がついていかないとな。そう言ってガイはハニカミ、ティアも胸に手を当てて、アニスの前に進み出た。アニスの瞳が揺れる中。ジェイドは、仕方がない、と言いたげに、ため息をついた。



「アリエッタがこの場所を指定してきたという事は、第七音素の異常消費の原因について何か知っている可能性が高い。情報を聞き出す必要もあるでしょう」

「…とか何とか言って。本当はジェイドもアニスの事が心配だって、素直に言ってやればいいのに」



ガイの言葉に、ジェイドは「やれやれ」と肩を竦めてみせた。



「…そうですねぇ。友や仲間……という言葉が正しいかどうかは分かりませんが、まあ腐れ縁であることは認めますよ」

「大佐らしい言い方」



ジェイドの目的としては、最初に述べた方の理由が一番大きいのだろう。けれど、ガイの言葉を否定はしなかった所をみると、どうやら本当に心配もしているらしい。初めて出会った頃と比べて、ジェイドも変わったなぁ…と、ガイは独り言ちた。



「…うん。分かった。皆にも付いて来てもらう」

「よし、決まりだな」



頷くアニスに、ルークが笑い掛けた。



「…待たせちゃって悪いね、アッシュ」

「いや。話がついたのなら、構わないが……本当に、行くんだな?」

「うん。だから、案内をお願い」



考え直すなら今だと、暗にアッシュは言ったが、アニスの決意は固かった。

早速ルーク達はアリエッタを探しつつ、街の奥に向かって歩いてみる事にした。と言うのも、アッシュの話によると、街の奥にある大広間でアリエッタ達は待っているらしいのだが……残念ながらアッシュも大広間の場所までは道を知らないのだという。何の為の案内人だよ!とルークが突っ込んだ所、島までの案内と立会人しか頼まれてねえよ!と、逆ギレで返された。

街の入り口と思われる門を潜ると、そこにはかつては多くの人々が生活していたであろう、立派な街並みが広がっていた。ただし、長い間使われていなかったのだろう、建造物は崩れ落ち、不気味な廃墟群と化している。かつてはさぞ美しかったであろうと思われる建造物を見上げる。潮に浸食されているとはいえ、全て統一された様式美が見事だった。



「……この街の人々は、ほとんど助からなかったでしょうね」

「ホドの消滅は、ホド以外の場所にも影響があったんだな……」



瓦礫の街並みを見渡し、ティアが切な気に呟く。ホド消滅の原因は、超振動によるもので。アクゼリュスが崩壊する様子を思い出して、ルークは胃が縮むのを感じた。



「でも、いくら津波に襲われたとしても、陸が浮島になるなんて、おかしいですわ」

「ああ。普通に考えて、自然現象では無いだろう」



ナタリアの指摘通り、このフェレス島跡地が浮島になっている原因は、人為的なものである可能性が極めて高い。彼女の言葉にアッシュも肯定を述べる。アッシュ自身、ここには初めて訪れた上に、今までこの浮島の存在すら知らなかった為、詳しい事は何も知らないのだという。



「他にも不可解な点はあるな。確かに建物はどれも廃墟にはなってるけど……新しく作られた様な部分もあるみたいだ」



ガイが建造物の中でも、周りの壁と比べて不自然に風化していない壁に触れると、パラリ…と、壁の一部が光と共に崩れ落ちた。その小さな瓦礫が音素の光となり、溶けて消えていく現象を目にしたジェイドが、驚きに瞳を見開いた。



「音素が乖離した?これは、まさか…」

「ひょっとして、この建物全部、レプリカなのか!?」



ルーク達が驚く中。ジェイドも壁や建築物を調べ、ふむ…と、小さく唸った。



「いえ、どうやら津波で残った建物をベースに、壊れた部分がレプリカで再建されている様です」

「建築物の補強と修復を、フォミクリーで賄ってたのか……」



本来あったと思われる瓦礫や建造物の残骸と、フォミクリーで新たに継ぎ足して作られたと思われる部分を比べて、ガイが表情を曇らせる。ティアも柱に手を添わせ、壊れかけた部分に触れると音素が乖離する様子を見て、思案気に考えを口にする。



「第七音素の大量消費の原因は、フォミクリーによる街の修復によるものだった、という所かしら」

「その可能性が高そうですね。ですが、生成された建物の状態からして、フォミクリーによる再建作業は途中で止められています。この浮島をフォミクリーの施設ごと放棄したのか、我々より先に来た何者かがフォミクリーの装置を止めたのか…」

『この島にあったフォミクリーの装置は、我々が停止させました』



ルーク達がハッとして視線を上げると、向かいの道からユリアが姿を現した。



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