覚悟の決闘(1/19)

ダアトの教団本部を去る間際に、アリエッタ達と一騒動あったものの、アニスがコレは私自身の問題だからと言って、此方は一旦保留という形になった。そうして障気の問題を解決する手掛かりを求め、イオンの助言通り、ベルケンドへとやって来たルーク一行は、早速第一研究所を尋ねた。



「元気そうだな」

「うむ。お前さん達のお陰で、研究を続けさせて貰っておるよ」



わしにはそれしか出来ないからな、とスピノザは呟く。裏切った自分を許し、再び仲間として迎え入れてくれたヘンケン達の為にも、これから一生かけて償うつもりだと彼は話した。現在、スピノザと似たような境遇下にあるアニスも、彼の話を聞いて何処かホッとしている様子だった。



「しかし大変な事になってしまったな」

「やっぱりタルタロスじゃ抑え切れないほど、地核の震動が激しくなってるのか?」



ガイがそう核心を切り出すと、スピノザはうむ、と頷いた。



「このままでは再び大地が液状化するかもしれん」

「アッシュやサク達が言ってた通りだな…」

「障気に液状化……。また元の魔界に逆戻りだ」

「パッセージリングが停止してるから、もうディバイディングラインも作り出せないしな……」



思わずガイも表情を顰める。このままでは、そう遠くない内に障気で大気は侵され、大地は液状化した障気の海へと沈む事になるだろう。やはり、現状はかなり厳しい様だ。



「やっぱ封じ込めるだけじゃなくて、根本的な障気の消滅を考えた方がいいのかな」

「それなんじゃが、ルークの超振動はどうじゃろうか」

「超振動で障気を消すのか?そんなこと出来ないんじゃ……」



超振動で障気を消そうという作戦は、以前ルークも考えた事のある方法で。ルークは思わず表情を強張らせた。アクゼリュスの事を考えると、今でも胸が抉られる様に痛む。街の住民の大半が生存している事は知っているが、崩落による犠牲者も存在している。その責任の一端はルークにあり、さらに住民達からアクゼリュスという街(居場所)を奪ったのも自分だ。

スピノザの提案に、否定しかけたルークだったが、ふと引っ掛かりを覚えた。本当に、不可能だったのだろうか…と。



「超振動は物質を原子レベルにまで分解する力がある。わしは超振動は専門ではないが、可能じゃろう」

「アクゼリュス消滅時の超振動を単純計算したところ、かなりの力のようですし」

「(俺の超振動で……?)」



スピノザと彼の助手曰く、出来るかもしれない…らしい。アクゼリュスの時は、障気ではなくセフィロトを消してしまったのだが、あの時の超振動の威力は確かに凄まじいものだった。不完全な発動で、街一つ破壊してしまったのだから。けれど、だからこそ……きちんと超振動を制御出来れば、不可能ではないのかもしれない。それに、ユリアも超振動で障気を消す事は、不可能だとは言っていなかった記憶がある。実際にティアが障気を譜歌で打ち消していた様に、超振動でも可能なのだろう。

この時、主に話を振られたのはルークとジェイドであったが……希望が見えた事により考えを巡らせているルークに対し、ジェイドの方はというと、何故か話に乗ろうとはしなかった。



「おお、お前さん達!来ておったのか」

「!ヘンケンさんに、キャシーさん!」



声を掛けられて振り返ると、荷物を抱えたヘンケンとキャシーの二人がいた。



「お二人も元気そうですね」

「お陰様でね。い組とめ組で共同作業をするようになってからは、シェリダンと此処を行ったり来たりで、大忙しなのよ」



キャシーの言動から察するに、どうやら今し方シェリダンから帰って来た所らしい。元気に仕事をしている二人の様子に、ルーク達の表情も綻ぶ。



「それより、近頃少しおかしなことが起きておる様でな。これはお前さん達も小耳に挟んでおいた方がいいじゃろう」

「おかしなこと?」



ルーク達が首を傾げると、うむ、とヘンケンは肯定した。その話をしに、二人は先程迄シェリダンに行っていたらしい。



「ただでさえ第七音素が減少傾向だというのに、第七音素が異様に消費されている地点があるのよ」

「一つは第八セフィロト――かつてのホドの付近の海中じゃな。神託の盾騎士団の方で調査隊が派遣されたそうじゃが、その時点では何もなかったらしい。もう一箇所は現在追跡中だそうじゃ。場所自体が移動しているようでな」

「移動施設?」

「陸艦とか、馬車とか巨大なものでないと、あれだけの第七音素を消費するのは不可能だと。此方にも調査の依頼が来たのじゃが……いかんせん、場所がマルクト領内である為、なかなか思うように調査を進まなくての。アルビオールもお前さん達とアッシュ達が使っておるしな。ただ、対象が海を移動していることは確実じゃ」



マルクト領内、第七音素…とくれば、このメンバーでまず最初に意見を求められるのは、やはり一人しかいない。ルーク達の視線も、自然とそちらへと向く。キャシーとヘンケンからの報告を聞いたジェイドは、暫し考える素振りを見せた後、少し間を置いてから口を開いた。



「…戦争も起きていない状態で第七音素を大量に使うのは、フォミクリーぐらいのものです。おそらくマルクトの方も調査は始めているとは思いますが……気になりますね」

「ジェイドがそう言うなら、フォミクリー施設の可能性が高いよな」

「海を徹底的に探してみましょう」


こうしてジェイドの一声により、一行は海上を移動する施設らしき物を捜索する事が決まった。



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