深淵の物語(4/8)


『…とまあそんな訳で、ローレライを解放する為には、まずローレライの鍵が必要みたいだし。ヴァンも何だかんだで生きてるっぽいし、リグレット達も動き始めてるから、私やシンク同様ヴァンも地殻から生還脱出してる可能性を考えて、潜んでそうな所をついでに捜し回ってたんだけど、今の所全部ハズレだったんだよねー』

「ついでって…」

『そうこうしてたら、最近教団内で不穏な動きが見られてるって報告がフレイル達から入ってくるし。それで気になって一度教団に戻ってみれば、今回の騒ぎだし。全く、タイミングが良いのか悪いのか…』



取り敢えず、此方の近況報告は以上です。と話を締め括り、冷めてしまった紅茶に再び手をつけた。…今の所ヴァンが大人しくしてる様子を見る限り、まだ彼はローレライを制御出来ていないのだろう。けれど、リグレット達の方は既に動き始めている。シナリオと違って、ダシに使われたのはモースではなく詠師会の者達であった為か、新生ローレライ教団とかいう組織も今の所は作られてはいない。否、志し半ばで潰してやったと言うべきか。預言を信じて叛逆を企てたら、実は惑星預言には近い内に世界の滅亡が詠まれてました!という事実が発覚した以上、本末転倒だもんね。御愁傷様である。…従って、第三者の介入により中途半端にレプリカ計画が進められる事も無く、レプリカが大量生産される様な事態には現在陥ってはいない。この辺はコッチで手を回してたから当然なんだけど。ヴァンが計画の指揮を取っている以上、現段階で杜撰にレプリカが大量生産される可能性は低い……と、思いたい。



「…そう言えばさ」

『うん?何だいルーク』

「ザレッホ火口でローレライの解放の為に、この世界へ遣わされて来たってサクは言ってたけど、あれはどういう意味…なんだ?」



お、良い質問が来たね。まぁ、ローレライの鍵が実在して、ローレライ解放の為に捜してるとなれば、やはり関係ありそうな情報は欲しい所なのだろう。思考の海から意識をルーク達に引き戻し、さてどう答えようかと暫し思案する。



『…ぶっちゃけると、言い回しの問題だね。正直、私自身も半信半疑な所はあるんだけど、私もルークやアッシュ同様、ローレライから直接頼まれちゃったからさ』

「!サクにもローレライの声が聞こえてたのか」

『うん。そこで、ローレライからのメッセージに、ちょっと大袈裟〜に脚色を付けて言い回してみたの。その方がカッコ良いでしょ?』



ローレライとの契約だから…と迄は言わないでおく。ユリアの再来云々の件は秘預言に関わる部分だし、ぶっちゃけ彼等にはあまり関係無い話だし。実は異世界人です。なんて話すのも一から説明しなきゃいけなくなって面倒くさい。

シンクが無言で視線を向けて来たが、彼が言わんとしている事は分かっているので、そのまま流しておく。



「じゃあ、俺がローレライの半身って言うのも…?」

『あれもあの場のノリが半分。残りは、ローレライ自身が自分と同じ存在ってルーク達の事を呼んでたから。多分、音素振動数が完全同位体だったから【同じ存在】ってローレライは言ったんだと思うよ』



何か無駄に神聖な感じがするでしょ?そう笑顔で話すサクはとても楽し気だ。廚二病でも楽しみたい!…なーんてね。



「って事は、イオンの事をローレライの愛し子って呼んだのも…」

『勿論、その場のノリです』



曰く、ローレライの愛し子って聞くと、レプリカって言うより聞こえが良い感じがするでしょ?そう付け足した時には、既にルーク達の表情が微妙なモノになっていた。まぁ、一言で言うと私は、ただの廚二病オタク……アビス関連の二次創作の読み過ぎである。あー…でも、もう二年近く読んで無いんだよね。もっとも、現在進行形でリアルアビス中ではあるけど。



『第七音素の恩恵を受けてるって意味では、強ち的外れな表現でもないしさ』

「何か…スゲー楽しそうだな…サク…」

「実際に楽しんでるからね。この顔は」



ジト目を向けて来るシンク。仕方ないでしょ、ルーク達には久し振りに会ったんだから。導師サクとして彼等と接する時は、ユリアの時より素で話せるから気楽なんだよ。ザレッホ火山での厳かな雰囲気はどこへやら。アレはただの廚二病だぜぶっちゃけ。今はルーク達の前なので、完全に普段の調子に戻ってます。

…一応、他の狙いとしては、イオンを狙う様な馬鹿な真似をさせない為の牽制も兼ねていたのだけれども。ユリアの再来が、ローレライの愛し子や半身と呼ぶ特別な存在。虫除けであり、更にレプリカの存在を蔑ませない為の、尊く高次な存在という認識を定着させる為の、あえての言い回しだったりもする。

…まぁ、現時点でこの世界にレプリカは緑っ仔と赤毛しかいない訳だから、あまり意味はないかもね。と言うより、これ以上増やす気は毛頭無い。

…一万人を、殺す為に作らせてなるもんか。



「私からも二つ程よろしいですか?」

『何でしょう?』



今まで静かだったジェイドが挙手されました。何を聞かれるか、内心かなりバクバクです。



「ルークとアッシュにローレライの声が聞こえるのは、彼等がローレライと完全同位体だからと仮定出来ます。けれど、導師サクは何故ローレライの声を聞く事が出来たのですか?」



二人と同様に、ローレライから直接頼まれたのですよね?ジェイドの眼鏡がキラリと光る。



『…今までにローレライの声を聞いた者は、何もアッシュとルークだけじゃ無いですよ?ジェイドさん』



確か、地殻でティアを媒体にローレライからコンタクトがあった筈だ。その現場に私は居合わせ無かったから、本当にこの世界でも接触があったかは知らないけど。



『かつて、歴史上にも居たと言われていますよね?ローレライの神託を受けて、今日のローレライ教団を作り上げる礎となった人物が』

「…始祖ユリア・ジュエの事ですか」

『つまり、第七音素の素養が強ければ、第七音素の完全同位体じゃなくてもコンタクトを取るのは可能って事です』



そんな天才第七音素譜術師、歴史上ユリアしか存在しなかったみたいだけどね。あと、地殻に封じられてる事も合間って、そう簡単にはコンタクトを取れなかったらしいし。または、ユリアもローレライと音素振動数が同じ、完全同位体だったって可能性も考えられるけど……どうだろうね。



「曲がりなりにも、サクは導師だからね。第七音素の素養はその辺の第七譜術師より無駄に強いんだよ。それも、歴代の導師の中でも群を抜いて…ね」



め、珍しくシンクに褒められた……気がする。けど、残念ながら私のチート性能は単にローレライのお陰なだけだ。もしくはトリップ補正が付いただけで、決して私本来の実力ではありません。



「…もう一つ確認します。イオン様が詠まれていた惑星預言の内容は、本物なのですね」

『あれはユリアが詠んだ物と同じ、第六譜石の先だよ。内容的にも、あのまま戦争を起こしていたら、この世界は滅びの道を辿ってたろうね。今も障気の問題やら何やらで人類存続の危機に直面してる訳だけど』



イオンの詠んだ預言を疑う訳では無いが、確証が欲しかった様子。…ジェイドらしいね。そんな彼が何を言わんとしているのかを察したガイが、神妙な顔付きになる。



「ユリアの預言が本当に破滅の預言を詠んでいたのなら、ヴァンのやり方にも一理あるのかもしれない…って可能性か」

「あくまで破滅の未来を回避する為に、レプリカ世界を作ろうとしてるなら…だけどね」



今度はシンクに視線が集まる。以前ヴァン側についていたシンクなら、知っていると踏んでの事だ。余計な事を言ったか…と、シンクが苦い顔をしているので、サクは苦笑しながらも『シンク…』と声を掛けて先を促した。



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