舞台裏の策略(4/7)


「フッ、導師にしては良い反応だな」

『そりゃどうも』



実はこのタイミングで髭が奇襲を掛けて来る事を知ってただけだぜ!なんて事は絶対に言わないけど。



「……せ、師匠!」

「スピノザ……!俺たち仲間より神託の盾の味方をするのか!」

「……わ、わしは……わしは……」



ヴァンの背中に隠れ、口ごもるスピノザを、ヘンケンはぐいと睨み付ける。…一応、負い目は感じでるらしい。スピノザはヘンケン達から気まずそうに目を逸らした。



「閣下!?」



どうやらリグレットが追い付いて来たらしい。まさか、フレイルやイエモンさん達が…と、ルークが顔色を青くさせているが、恐らくそれはない。あの後カンタビレも加勢に入った筈だし、何より私は彼等に街の人達の護衛兼"リグレットの少しの間の足止め"を頼んだのだ。だから、この場にリグレットが追い付く事は問題無い。

今のところ、全て予定通りの流れだ。



「失策だな、リグレット」

「すみません。すぐに奴らを始末します」



ヴァンは、ようやく追い付いたリグレットを横目で捉えながら皮肉な口調になった。リグレットが譜銃を構え直そうとした所へ、ジェイドが素早く譜術を放ち、リグレットの腕から譜銃を弾き飛ばした。



「ルーク!いけません」

「どうして!」

「今、優先するのは地核を静止することです。タルタロスへ行きますよ」

「……くそっ!」



ヴァンの方に一歩踏み出し掛けたルークの肩を、ジェイドが引き戻す。しかし、ヴァンがそう易々とルーク達を見逃してくれる筈も無い訳で、ヴァンの方も既に剣に手を添えながら、前に進み出ている。ルーク達には背を向けて、音叉に音素を集め始めたサクだったが……そんなサクとヴァンとの間に、ヘンケンとキャシーが立ち塞がった。



『(…って、ちょ!!?)』

「危ないわ!逃げて!」



兄の性格をよく知るティアが、悲痛な声を上げる。だが、二人は肩を組んで腕を広げながら、首を横に振った。



「そうはいかない。こんな風になったのは、スピノザが俺たち【い組】を裏切ったからだ」

「こんな年寄りでも障害物にはなるわ。あなた達はタルタロスへ行きなさい」

「……どけ」

「馬鹿もん!どくんじゃ!」



ヴァンの低い声音にビクリと肩を震え上がらせたスピノザも、慌ててヘンケンとキャシーに言う。しかし、二人は頑として動かない。……全く、そんな絶望的な顔して、そんな情けない声を出す位なら、最初からヴァンになんか加担しなければ良かったものを。



「仲間の失態は仲間である俺たちが償う」

「行きなさい!」

『いや、マジで退いて下さい』

「「「!!!」」」



一瞬で二人の頭上を飛び越えてヴァンとの間合いを詰め、サクは音叉をヴァンに振り翳す。その大振りな動作は、ヴァンが剣を抜くには十分過ぎる時間で。ヴァンが私の無防備な胴へカウンターをかまそうとした所へ、既に発動させていたプリズムソードを一足先に落としてやった。音叉の方は実はフェイクでした。

ヴァンが譜術をくらっているその隙に二人をその場から引き離し、再びルーク達の所へと退避させた。…うわっ、ヴァンの奴、今のサンダーブレードを守護封陣でガードしてやがった!



「サクっ!!」

『何してんの!今の内に早く行って!!』

「でも、サク様が…っ」

『いくらヴァンでも、導師を殺しはしないから大丈夫だよ、アニス』



いや、ヴァンなら殺そうと思えば躊躇いなく殺すだろうけど。本人を前にして断言出来る程に。でもその事を焦るルークやアニス達にボヤク訳にはいかない。彼等には、先に進んで貰わないと、地核静止作戦が失敗するし。



「ルーク!時間がありません!」

「兄さんに追いつかれると作戦が失敗するわ!サク様やイエモンさん達の行為を無駄にしたいの!?」

「分か…」

『(!ヤバっ)』



ルークがジェイドとティアに気を取られた隙に、再び譜銃を手にしたリグレットがルークに銃口を合わせていた。リグレットの行動に反応が僅かに遅れてしまったサクが焦る最中、サクよりも早くにリグレットの動きに気付いていたアストンがルークを庇おうと身を呈して飛び出し……た所へ更にアッシュが駆け込み、銃弾を剣で弾いた。



「全く。いつまでグズグズしていやがる!この屑がっ」

「!!アッシュ…!!?」



窮地に突然現れたアッシュに対し、本当に協力してたのか!とルークが驚く反面、彼が間に合った事に対してサクは内心安堵する。今のは本当に肝を冷やした…。



『結構ボロボロみたいだけど、大丈夫?』

「フン。テメェに心配される程は落ちぶれちゃいねぇよ」



既にヴァンとの一戦を交えた後で、尚且つ一度退けられたのだろう。アッシュの負傷具合を見れば分かる。やはり、彼にヴァンの足止めを頼んだのは厳しかったか……と、サクは僅かに表情を顰めた。否、俺が行く!って言ってアッシュが譲らなかった結果でもあるのだが。とはいえ、さっきの私じゃないけど、ヴァンならアッシュを殺さないと分かってるから、私も止めなかったんだけどね。



「アッシュ、サクっ!」



二人の背中を見た時。ふと、ルークは違和感を感じた。何処と無く見覚えのある、既思感の様な。



「だからテメェは…いつまでそこに居やがる!サッサと行けっ!!」

『大丈夫だから、ここは私達に任せてよ』



振り返らずに、アッシュが怒鳴る。サクも、振り返らない。ヴァン師匠達を相手に、隙を見せる余裕が無いのかもしれない。

俺達を守る為に。



「二人供……っ、ごめん!」



ヴァン師匠達から俺達を逃がしてくれたアッシュと並ぶサクの後ろ姿が、バチカルで俺達を逃がしてくれたアイツの姿と被って見えて。



『大丈夫だから、ここは私達に任せてよ』

『さぁ、お二方共。早くお逃げ下さい。追っ手は我々が食い止めます』




全然違う筈なのに、何かが引っ掛かって。

でも、結局その答えは出ないまま……俺達はタルタロスを目指して走り出した。



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