導師守護役(2/10)

一階に降りると一般の人達もいる為、頭を下げられればにこやかに挨拶を返す。

私が正式に教団の第二導師だと紹介されてからは、一般の人達の間でも少しずつ認知されていってるらしい。

そして、私の隣を歩くシンクには、現在仮面を着けさせている。今の所、彼が素顔で過ごせるのは私の私室内だけであり、こうして他の場所では仮面が必要となってくるのだ。

それが、少し心苦しいのだけれど。



『シンク、大丈夫?』

「…うん」



まだあまり人前に出た事が少ないシンクは、やや緊張気味の様子。今はこうして度々教団内に連れ出して、少しずつ外の環境に慣れさせている所だ。



「導師様、こんにちは」

『!タトリンさん。こんにちは』



図書室に向かう途中で、パメラさんと出会った。教団内で彼女と会うのは、かれこれ三回目だろうか。まだそこまで親しくはなっていない為、彼女と交わすのは社交辞令程度の会話だけだ。



「あら?ソチラの方は…」

『彼はシンクです。最近教団で保護された子なんです』

「……こんにちは」



若干警戒してて声が固かったけど、挨拶出来たから良しとしよう。偉いぞシンク!

タトリン婦人は、アリエッタの前例があってか、シンクに対して特に疑問を持たれなかった。仮面に関しても笑顔で「素敵な仮面ですね」と、この調子………本当に、他人を疑う事とは無縁な夫妻なんだな…と改めて思う。

彼女と別れた後、図書室でシンクの本を借りて再び部屋へと戻る事にした。もう少し外に出るのに慣れて来たら、今度は一緒に外出してみるのも良いかもしれない。あ〜、けどその時は導師守護役を付けなきゃダメかな……今度アリエッタに頼んでみよう。



「導師様、預言を頂けませんか?」

『良いですよ』



たまに、こうして頼んでくる参拝客もいる。預言の読み取り方は教わってるから、頼まれても大丈夫なんだけど。

こうして見ると、この世界では本当に預言が普段の生活の中に浸透してるんだな……って実感する。

預言を詠んで、参拝客に挨拶を交わして別れた時、ふとシンクが私の服を引っ張ってる事に気付く。



「………サク、」

『シンク?どうかし…』

「導師サク!」

『!』



いきなり響いた男の怒声に、驚いて振り返ると、近くにローブを深く被った男がいた。あぁ、さっきから感じてた嫌な視線は―――…この男の物だったか。

大詠師派か、過激な導師派か……どうやら今回は後者の様だ。突然導師として現れた私は、病弱な導師イオンの地位を乗っ取ろうとする、大詠師派の回し者だと一部では認識されている様で。

心外だ。私は中立でむしろイオン派に近いのに。と、文句を言えるような余裕は実際には無い。

導師になったのは極最近。もとが普通の女子高生な私にとって、いきなり命の危機に晒されても対応出来る筈がない。



「覚悟!」

『っ、』



けど、導師守護役も付けていない今、迷ってたら確実に殺られる。男が隠し持ってたナイフを取り出し、此方に向かってくる。

咄嗟にシンクを後ろに下がらせ、頭に浮かんだ言葉を反射的に唱えた。



『…スプラッシュ!』



最近覚えたばかりの初級譜術だ。付け焼き刃だったが上手く成功したらしく、譜陣から発生した濁流を浴びせられて男が倒れた。



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